大阪大学(阪大)は9月5日、ナノ構造を工夫することで「明るく広角で、色が偏らず、防汚機能もある」光拡散シートを初めて実作することに成功したと発表した。
同研究成果は、阪大大学院 工学研究科の齋藤彰准教授、山下和真大学院生らの研究グループによるもの。詳細は、光と物質の相互作用に焦点を当てた材料科学に関する学術誌「Advanced Optical Materials」に掲載された。
これまでの光拡散材は、微小な散乱帯を埋め込んで光を拡散するか、表面の微小凹凸による屈折で光を曲げる仕組みであった。しかし、散乱体を利用した場合は明るさと角度広がりが両立せず、屈折の場合には角度広がりの不足に加え、汚れやすいなどの欠点があったという。
そこで今回研究チームは、これらの課題を解消した光拡散シートの開発に着手。そのヒントとして、南米に生息し“生きた宝石”とも呼ばれる青く輝く「モルフォ蝶」に着目したとする。
モルフォ蝶の翅は、シャボン玉と同じ光干渉であるにも関わらず、虹色ではなく青く見える。一見すると物理学的に矛盾したこの発色の要因には、乱雑さを含むナノ構造による回折が影響しているという。なお回折とは、波が波長程度の小さな構造にあたることで、そこから広がって伝播していく現象を指す。
そこで研究チームは、明るく広角で色が偏らない反射を持ち、発災性も兼ね備えるモルフォ蝶の翅の原理を分析したとのこと。そして、翅の微細構造が“狭い幅からの回折”で光を広角に広げ、“乱雑さ”で色の偏りを防いでいることを発見したという。
その後、これらの構造や仕組みを応用して、ナノ構造からの回折に基づく光拡散シートを作製したとする。この時、回折は表面構造のみで生じさせることができることから高い透過率を実現可能なうえ、表面のナノ凹凸により撥水性や防汚性を付与できる(この仕組みはヨーグルトの蓋裏などに利用されている)ことを考慮し、透過性と防汚機能も兼ね備えるシートの実現を目指したとのことだ。
そして、電磁場シミュレーションにより実作可能な構造を設計し、半導体技術を用いて実作した結果、その構造が所定の特性を満たす(角度広がりは垂直方向から±40度、透過率90%超、色分散無し、防汚機能あり)ことを実証したという。また設計次第では、拡散光の形状異方性の制御も可能だとする。
今回研究チームは、モルフォ蝶の特異な反射特性を透過に転用することで、さまざまな条件を満たす構造を発案し、実作によりその機能を確認した。この技術は今後、省エネに役立つ採光窓や、各種照明やディスプレイに役立つ光拡散シートへの応用が期待されるとしている。