鹿児島大学は9月5日、口の体操の1つである「あいうべ体操」が、子どもの「お口ぽかん」(口唇閉鎖不全)に対する効果を発揮することを明らかにしたことを発表した。
同成果は、鹿児島大病院 小児歯科の稲田絵美講師、朝日大学 歯学部 小児歯科学分野の齊藤一誠教授、同・海原康孝准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、口腔および頭蓋顔面科学に関する学術誌「Archives of Oral Biology」に掲載された。
子どものお口ぽかんは日常的に唇が開いた状態になってしまうため、口腔内が乾燥することでむし歯や歯肉の炎症を引き起こし、口腔内環境を悪化させてしまうことがわかっている。また、唇を閉じる力(口唇閉鎖力)が弱いため、歯を取り囲んでいる唇・頬と舌の力のバランスが崩れてしまい、その結果として上の前歯が出っ歯(上顎前歯の唇側傾斜)になったり、上顎の横幅が狭く(上顎歯列弓の狭窄)なったりすることで、歯並びが悪くなることも少なくないという。さらに、アレルギー疾患を誘発する、姿勢が悪くなる、集中力が低下するなどの弊害も報告されている。
研究チームによって行われた、日本人の子どもたちを対象としたこれまでのお口ぽかんの有病率を調べた研究では、3歳~12歳までの子どもの30.7%がお口ぽかんの状態であることが明らかになったという。さらに、その有病率は年齢とともに増加すること、それに加えて自然に改善することが期待しにくい習癖であることなども解明されている。このことから、お口ぽかんは積極的に対応するべき歯科疾患であるといえるとする。
こうした悪影響を及ぼすお口ぽかんに対する療法としては、鼻づまりや極端な歯並びの異常がある場合を除き、口唇閉鎖力を強くさせるための体操が優先して行われている。しかし、子どもに対するその体操の効果やその有効性については、明確にされていないのが現状だったという。そのため今回の研究では、未就学児に対し、お口ぽかんに有効とされる「あいうべ体操」を実施し、その効果について検証を行ったとのことだ。
同研究では、鹿児島県内の幼稚園に通園している3歳~4歳の子ども123名を「体操群」として、1年間あいうべ体操が実施された(対象期間:2015年~2018年)。あいうべ体操とは、唇を「あ・い・う」の順番に動かし、最後に舌を「べ」と前へ突き出す運動を1セットとする体操のことで、この体操が毎朝幼稚園にて36セット実施された。
その後、子どもたちの口唇閉鎖力と口元の形の変化について、2009年~2013年に同幼稚園に通園していて体操を実施していない3歳~4歳の子ども123名の(対照群)との比較が行われた。
この比較では、上唇の突出感、下唇の突出感、上下唇の突出感の3種類の角度が基準となった。これらの角度は小さければ小さいほど唇がより前に突き出て、お口ぽかんの状態になるという。
比較の結果、両群とも口唇閉鎖力は1年間で成長により増加したが、体操群はより増加量が大きいことが判明したとのこと。また、口元は両群とも成長により引き締まる傾向にあったが、下唇については体操群の方がより引き締まることが確認されたとする。
さらに、体操群の中で口唇閉鎖力が弱い34名(27%)と、対照群の中で同様に口唇閉鎖力が弱い37名(30%)だけを対象として、口唇閉鎖力と口元の形状の比較を行った結果、両群とも口唇閉鎖力は1年間で成長により増加したが、体操群の方がより増加量が大きいことが明らかになったという。
また口元の形については、体操群は上唇、下唇、上下唇いずれも引き締まる傾向があったが、対照群は上唇、下唇、上下唇いずれもより前に出る傾向があり、お口ぽかんの状態が見た目でもわかりやすくなる可能性が示唆されたとしている。
これまで歯科領域では、むし歯治療のような疾患の修復に重点が置かれていた。しかし近年は、「食べる」「話す」「呼吸する」といった口腔機能を獲得・維持・回復することが重要視されるようになっているという。これに伴い、2018年4月からは、ライフステージに応じた口腔機能管理を推進するため、口腔機能の発達不全が認められる子どもにおける口腔機能の評価や治療、管理について、健康保険が適用されるようになった。
子どもの時期の口腔機能は常に発達・獲得の過程にあり、将来起こり得る問題を未然に防ぐためにも、口腔機能の発達不全に対する積極的な訓練を含む治療や体操が必要だ。口の体操にはさまざまな方法があるが、子どもや子どもを取り巻く環境に適したものを取り入れながら、継続させることが重要だという。研究チームは今後も、子どもの口腔機能に関する病態解析や治療・訓練効果の検証を進めることで、子どもの健やかな成長発育を支援していきたいと考えているとしている。