沖縄科学技術大学院大学(OIST)と大阪公立大学(大阪公大)の両者は9月5日、触媒としてしばしば利用される有機金属化合物の一種で、これまで電子が20個までの構造を取れると考えられてきた「メタロセン」について、19電子の同化合物にさらに2個の電子を追加し、21電子という新たな化学構造の化合物を開発することに成功したと共同で発表した。
同成果は、OIST サイエンス・テクノロジーグループの竹林智司研究員、同・大学 エンジニアリングサポートセクションのヒョンビン・ガン リサーチサポートスペシャリスト、大阪公大の佐藤和信教授に加え、ドイツ、ロシアの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
メタロセンは、金属原子と有機分子からなり、化学反応を促進させる働きをする有機金属化合物の一種で、特殊なサンドイッチ構造で知られている。また用途が広いことも特徴で、多くの異なる元素をサンドイッチしてさまざまな化合物を形成する能力があり、それによって同化合物はポリマーの製造、血液中のグルコース量を測定するグルコメーター、ペロブスカイト太陽電池、触媒など、多様な用途に使用されている。
そしてメタロセンの化学構造は、さまざまな電子数に対応でき、最大20個の電子を持つ錯体を形成することが可能なことがわかっていた。最も安定なのは18電子構造で、電子数が19個以上になると、その化学結合が伸びたり、切れたりと、構造が変化することもわかっている。そうした中で研究チームは今回、19電子のメタロセンにさらに2つの電子を加え、これまでの常識を打破する21電子のメタロセンの合成を試みたとする。
今回作り出された21電子のメタロセンは、溶液状態でも固体状態でも安定で、長期保存が可能だという。これにより、触媒はもとより、医療やエネルギー分野などへの応用が可能な新素材を創出できる可能性があるとしている。
研究チームによると、今回の研究で最も困難だったのは、サンドイッチ構造を変化させることなく窒素がコバルトに結合したことを示すことだったという。メタロセンのサンドイッチ構造は容易に変化するため、同化合物が隣接するすべての炭素原子に正しく結合し、窒素原子がコバルト原子に結合していることを厳密に証明しなければならなかったとのこと。そうした課題に対し今回は、海外の研究者も含めて専門分野の異なる研究者を集めた研究チームを組織し、それらの元素が結合していることを明確に示すことに成功したとしている。
研究チームは今後、21電子メタロセンの触媒や材料科学などへの応用や、この発見に基づく新規有機金属化合物の探索に焦点を当てる予定だとしている。