大阪大学(阪大)は8月31日、パルス幅が1000兆分の1秒であるフェムト秒レーザーを照射した直後の金属材料内部の衝撃波伝播に伴う、応力・ひずみ・塑性変形の複雑な挙動を把握することに成功したと発表した。
同成果は、阪大大学院 工学研究科の佐野智一教授、同・松田朋己助教らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
フェムト秒レーザーは、一般的には固体材料の微細加工や眼科治療、外科手術などに用いられているが、最近になって搭乗したのがフェムト秒レーザー衝撃加工という新たな加工法だ。
フェムト秒レーザーを金属材料に照射すると、照射された部分の金属材料が瞬時に気化・プラズマ化し除去される。その時の反動によって除去される金属材料表面に衝撃波が駆動され、金属材料内部を伝播し金属材料は衝撃圧縮される。この衝撃波を「フェムト秒レーザー衝撃波」という。なお、衝撃波とは音速より大きな速度で進み、波面の前後で質量保存則、運動量保存則、エネルギー保存則が成り立つ波のことをいう。
このフェムト秒レーザー衝撃波は、よりパルス幅の長いナノ秒レーザーを照射した時に発生するナノ秒レーザー衝撃波や、飛翔体が物質に衝突した時に発生する衝撃波とは異なる特徴を持つとする。物質中に特異な微細構造を作り出したり、金属材料を鍛えて強くして壊れにくくしたりすることなどが、佐野教授らのこれまでの研究で明らかにされている。そのため、フェムト秒レーザー衝撃波の特性は、他の衝撃波の特性とは異なる可能性があると思われてきたという。しかし、フェムト秒レーザー衝撃波による金属材料の変形は超高速であるため、その変形挙動を正確に捉えることはこれまで困難だったとする。
そこで研究チームは今回、理化学研究所が運用するX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAのXFELを用いて、フェムト秒レーザーを照射し衝撃圧縮されて超高速で変形している途中の金属材料の原子の動きを調べることにしたという。XFELを観察に利用することにした理由は、原子や分子の瞬間的な動きを観察することも可能だからだ。
今回の実験では、金属材料として鉄が用いられた。その理由は、鉄が工業や地球科学の分野で重要な材料であることと、従来の衝撃圧縮下での挙動が十分に研究されているからだとする。
フェムト秒レーザー照射後にXFELを照射するタイミングを何通りも変更し、それぞれのタイミングにおけるX線回折パターンが取得された。その結果、超高速の原子の動きを捉えることに成功したという。さらに、その実験結果が理論的に解析され、フェムト秒レーザー照射直後の金属材料内部の応力やひずみ、塑性変形の複雑な挙動が明らかにされた。
その結果、フェムト秒レーザー衝撃波による変形の初期過程は、意外にも、従来の衝撃波によるものと同じであることが判明。また、理論的に予測されていた応力波とひずみ波のピークの時間的なズレを、初めて実験的に確認することができたとする。それに加え、応力波とひずみ波のピークの間に塑性波のピークが存在するという、理論的にも予測されていなかった新しい発見もなされたとした。
今回の研究成果により、長寿命材料の創成と構造物の延命を可能とするフェムト秒レーザー衝撃加工法のさらなる高度化や、二律背反の関係にある、強度と靭性を両立させる新規材料の設計に新たな道を切り拓くことが期待されるとした。