KDDIとKDDI総合研究所の両社は8月31日、水中での複数の作業者やダイバーの位置特定が可能な水中音響測位装置を開発し、静岡県沼津市沿岸で実証実験を行った結果、海中に潜行するダイバーなど計10台の対象の位置を1台の受信器で毎秒測定し、それぞれの位置を可視化して観測することに成功したと共同で発表した。

  • 実証実験のイメージ。

    実証実験のイメージ。(出所:KDDI Webサイト)

KDDIグループが注力している領域の1つにデジタルトランスフォーメーション(DX)があり、海洋を含む水域もその対象の1つだという。近年では、国内の港湾事業などの水中インフラ点検や、漁業などの水産資源の監視などの必要性が増加している上、そうした水中活動では事故のリスクが伴うためだ。そのため同グループではこれまで、青色LED光無線通信の実用化に向けた実証実験や、水空合体ドローンの開発などの研究開発や技術検証といった、海洋DX関連の研究開発を進めてきている。

そうした中で1990年代から長きにわたって研究を行っているのが、水中での音響通信や音響測位だという。そして近年は、水中活動での不安を払拭し、事故が起きた際の捜索や救助のため、また複数の水中作業者や水中ドローンがより効率的に作業するため、水中活動時の位置把握、安全確保が重要な課題と認識し、その対策を検討してきたとする。

そこで今回は、これまで同グループが開発してきた、1台の受信器で1秒間に複数の対象(超音波発信器)の位置を観測可能な「SSBL(Super Short Base Line)音響測位技術」を用いて、実証実験を行ったという。

  • 水中音響測位装置。

    水中音響測位装置。(出所:KDDI Webサイト)

SSBL音響測位技術は、複数台の超音波発信器の発信タイミングを0.1秒ずつずらし、超音波受信器が同じタイミングで受信して毎秒計算することで、1台の受信器であっても複数台の超音波発信機の位置を割り出せるというものだ。なお今回の実験は、沼津市沿岸の最大水深34mの海上に錨で固定された台船上で行われ(測定範囲の面積は約400m2)、10台の超音波発信器が水深2m~30mの各位置に、1台の受信器は水深1mに沈められた。そして同環境下において、10台すべての発信機の位置を観測することに成功したという。

また、10台のうち3台の超音波発信器は2名のダイバーと1台の水中ドローンに装着されており、潜行するダイバーと水中ドローンの位置を毎秒可視化することにも成功したとする。これにより、ダイバーや水中ドローンの位置と動き(位置の時間推移)が陸上でも把握でき、さらにそれぞれの位置情報や動きをダイバーへフィードバックすることで、水中活動の安全性や効率を向上させることが期待されるとしている。

  • 実証実験の様子。

    実証実験の様子。(出所:KDDI Webサイト)

なお両社は、音波を使った測定が一般に海面などの反射が大きく影響するのに対して、これまで培った水中音響測位技術の知識や技術の蓄積により、今回の実装方式では反射の問題を大幅に軽減し、実海域で動作することが確認されたとする。

KDDIグループは今後、位置測定性能の向上、測定対象数の拡大、測定範囲の延伸などの開発を進め、水産資源の監視や水中インフラ点検をより安全かつ効率的に行えるように、海洋のDX化を支援するという。さらに、スキューバダイビングなどのレジャーへの活用も検討し、さまざまなシーンでの社会課題の解決を目指すとしている。