ギットハブ・ジャパンは8月30日、生成AI(ジェネレーティブAI)を利用したソフトウェア開発をテーマに記者説明会を開催した。同日には、GitHub Copilotをはじめとした開発ツールを導入し、ソフトウェア開発におけるトランスフォーメーションを進めるパナソニック コネクトの事例が紹介された。
「Blue Yonderに学べ!」をスローガンに開発環境を整備
説明会では、パナソニック コネクト 常務 CTOの榊原彰氏が、同社で現在推進しているソフトウェア開発トランスフォーメーションの進捗を紹介した。同社はパナソニックグループの持株会社制への移行に伴って2022年4月に発足した企業で、ハードウェアとソフトウェアの事業を展開している。
榊原氏は、「ソフトウェア事業においてはパナソニックのIoT技術と、2021年に買収したSCM(サプライチェーンマネジメント)大手であるBlue Yonderのサービスの統合を目標としており、そのためにハードウェアセントリックな開発を現代的なものにしている最中だ」と明かした。
榊原氏によれば、国内では1990年代に「ソフトウェアはハードを動かすためのもの」と捉えられ、それ以降ソフトウェアに付加価値があると考えられていなかった時代が長く続いたことにより、パナソニック内では「ソフトウェア自体に価値がない」という発想が色濃く残ってしまっていたという。同時に、開発プロセスの標準化やルールの固定化により、時流やビジネスの変化に柔軟に対応できない開発体制が続いてしまっていたそうだ。
「プロセスがガチガチに決まり、金科玉条なものになり、ルールにないものをどうするか考えが至らない状態だった。また、各事業部を独立した組織とみなす事業部制のため、社内で成果物や研究内容をシェアする文化がなかった」と榊原氏は振り返った。
そこで、同社では榊原氏が推進役となり、2021年から研究開発本部でさまざまな開発トランスフォーメーション施策を実行。研究ポートフォリオの整理から始まり、産業や業界の将来予測に基づいた研究と、研究成果の社内プレイブックへのブレイクダウン、研究と開発の一体化に取り組んだ。また、開発状況やソースコードのシェア、開発組織の仲間に関心を持つ文化の醸成などを進めた。
同施策では「Blue Yonderに学べ!」をスローガンに、同社の開発環境のクローンを作るところから始め、その過程でGitHubをはじめとした開発ツールを導入した。
開発プロセスのリアルタイムな可視化とアジャイル採用も施策の1つだ。現在はアジャイル実践に向けて、ワークフローを自動化するためGitHubでコードレビューを行い、GitHub ActionsによるCI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)に基づくテストなどを実施している。
2023年8月25日時点で539ユーザーがGitHubを通じて、1100リポジトリを利用しているそうだ。研究開発本部での導入が一段落したため、今後は同社の全事業部でソフトウェア開発環境を整備する方針だ。
AI倫理規定委員会などと社内ルールを策定し、Copilotを試験導入
開発トランスフォーメーションの一環として、2023年7月10日~7月30日にかけて、パナソニック コネクトではGitHub Copilot for Businessを試験導入した。対象は同ツールの利用に関心のある50人で、ハンズオンワークショップを実施するほか、知財部門やAI倫理規定委員会と相談のうえ、導入期間中の利用ルールを策定したうえで試験利用がスタートした。
ユーザーはAIの開発もしているので使用言語はPythonが最も多く、JavaScript、C#、C++などでもCopilotが利用された。また、Linuxで開発をしている人が多いため、エディターにはほとんどVisual Studio Codeが用いられた。
利用後のアンケートでは、コード補完、ドキュメント生成やテストコードの作成、リファクタリング、コーディング中の知識収集、テンプレート検索などの活用例が報告された。
試験導入を振り返りつつ榊原氏は、「参加者からは生産性向上を実感する声や、継続利用を希望するコメントが見られたため、本格的な導入を検討している。まずは、研究開発部門や事業部横断でクラウド基盤を整備する部門からの導入となるだろう。ライセンス数や具体的な部署などについては検討している段階だ」と述べた。
製造業ではレガシー言語の読み解きにCopilotを利用
説明会では、日本におけるGitHub Copilotの活用例も紹介された。ギットハブ・ジャパン カスタマーサクセスアーキテクトの服部佑樹氏は、「Copilotによって生成されたコードの正確さをチェックし、実際に採用するかどうかの判断は開発者に委ねられるが、コーディングの手間を省くことが可能だ。完璧なコードを生成する便利ツールというより、エンジニアのパートナーとしてコードを提案してくれる存在だ」と同ツールを説明した。
エンタープライズでよくあるニーズとしては、テスト工程にGitHub Copilotを利用するケースが多いそうだ。また、コピー&ペーストのような繰り返し作業も、同ツールがコードの前後の文脈を読み取って、自動で行ってくれるという。開発環境と他のアプリケーションを行き来するコンテキストスイッチといった、開発者の集中力を下げるアクションを解消する際にもGitHub Copilotは役立つそうだ。
2023年3月に米GitHubは、生成AIを活用して開発者体験を向上させるために今後注力する取り組みとして「Copilot X」を発表した。同取り組みでは、GitHub Copilotへのさまざまな機能追加が予定されているが、その中の1つである「GitHub Copilot Chat」では、コーディング関連の質問を投げかけることで、それに対する回答を返してくれる。
GitHub Copilotは現在、世界で150万人以上に利用されており、30億行を超えるコードを生成しているそうだ。日本では、デジタルネイティブなIT業界の企業だけでなく、製造業や小売、組み込み、自動車産業など、幅広い業界で利用されているという。
例えば、製造業ではレガシーなアプリケーションやシステムで利用されている開発言語を読み解いたり、機能追加をしたりする際に活用されている。説明会では、元の開発者がすでに退職しまっているケースにおいて、経験の浅いエンジニアがGitHub Copilotを利用することで元の言語を自分の理解できる言語に変換し、特定のコードが何をしているのか自然言語で説明させるといった使い方が紹介された。
ギットハブ・ジャパン リージョナル ディレクターの山銅章太氏は、「コードの補完は序章に過ぎない。Copilotを活用することで言語やプラットフォームマイグレーションも実現可能だ。また、Copilot Xで提示した機能をいち早く市場に投入するのが当社の重要なミッションとなる」と語った。