東京大学とZOZOの両者は8月31日、ZOZOが開発した3D計測用ボディスーツ「ZOZOSUIT」を着用し、検証用に新たに開発した専用のスマートフォンアプリを用いて患者自身を撮影することで、主に若年世代の治療を要する可能性のある中等症以上の「脊柱側弯症」を、患者1人でもいつでも自分で検査できる仕組みを開発することに成功したと共同で発表した。
同成果は、東大大学院 医学系研究科 外科学専攻 感覚・運動機能医学講座 整形外科学の伊藤悠祐大学院生、同・大島寧准教授(東大 医学部附属病院 整形外科・脊椎外科兼任)、同・田中栄教授(東大 医学部附属病院 整形外科・脊椎外科兼任)、同・医学系研究科 次世代運動器イメージング学講座の土肥透特任准教授(研究当時)、同・大友望特任助教(研究当時)、東大 医学部の谷口優樹講師(東大 医学部附属病院 手術部兼任)、ZOZOの共同研究チームによるもの。詳細は、脊椎疾患に関する全般を扱う学術誌「Spine」に掲載された。
脊柱側弯症は、正面や背後から見た際に脊椎が左右にゆがんだり曲がったりしていることをいい、中でも思春期に発症する原因不明のものは「思春期特発性側弯症」と呼ばれる。自覚症状に乏しく、家族も気がつかないことが多いため学校検診にも組み込まれているが、視診やモアレ法などの既存の方法では感度の問題や、検査に必ず検査者を必要とすることから頻回の検査が困難であり、適切な時期に検知できないなどの問題点が指摘されていた。
一方、特発性側弯症は成長期に急速に悪化することが知られており、進行すると手術が必要になることもある。また、コブ角が25度程度を超えた時点で成長段階によっては、進行を防ぐために装具治療に代表される保存療法を開始する必要もあり、こうした背景から特に治療を要するような脊柱側弯症を再現性よく、適切なタイミングで検知できるような新たなスクリーニング方法の開発が強く求められていた。
そこで研究チームは今回、ZOZOが開発した3D計測用ボディスーツZOZOSUITと、検証用に開発された専用のスマートフォンアプリを用いて、主に若年世代の治療を必要とする可能性のある中等症(コブ角25度以上)以上の脊柱側弯症を検知できるかどうかの検討を行うことにしたという。
このシステムではまず被験者がZOZOSUITを装着し、1.5m離した位置に設置したスマートフォンのアプリの指示に従い、30度ずつ向きを変えて合計12点の画像を撮影。その12点を用いてアプリが自動的に体表の3Dモデルを生成するという仕組みだ。
今回の研究では、この3Dモデルから取得・再構成した各レベルの横断像から体幹のゆがみを示すZ値という固有値が定義され、検討が行われた。側弯症症例54例と非側弯症47例で検討が行われたところ、中等症以上の側弯症症例では、非側弯症群やコブ角25度未満の軽症群と比較して有意にZ値が高値であることが判明したという。
またROC(受信者動作特性)解析が行われたところ、最適なカットオフ値としてZ値=19.9㎜と算出され、このカットオフ値に設定すると中等症以上の側弯症を感度95.3%、特異度58.6%で検出できることが確認されたとした。スクリーニング検査としては妥当な感度と考えられ、今回の技術が脊柱側弯症検知のスクリーニングツールの基礎技術として有用である可能性が示唆されたとする。
今回の技術を応用することで、将来的には検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返し脊柱側弯症のセルフスクリーニングを行うことができる新規診断ツールの開発につながることが期待されるという。実用化に向けてはまだ課題も多いというが、今回の技術を応用した新規の脊柱側弯症のスクリーニングツールが実現すれば、重症化されるまで見逃されていた脊柱側弯症の症例を適切なタイミングで検知・医療機関に誘導できるようになるなど、患者への恩恵が期待されるとした。また、手術治療を回避することができる症例が増えることは患者へのメリットのみならず、医療経済的な観点からも大きなメリットと考えられるとしている。