産業技術総合研究所(産総研)は8月28日、2023年10月4日〜6日にかけて福島県郡山市にて、東京GXウィークの一環として「第5回 クリーンエネルギー技術に関するG20各国・地域の国立研究所等のリーダーによる国際会議(RD20:Research and Development 20 for Clean Energy Technologies)」を開催するのに先駆け、RD20に関するメディア向け説明会を実施。同会議の概要などの説明を行った。
RD20は、カーボンニュートラルの実現に向け世界最先端の技術開発を行うG20各国・地域の主要な研究機関の連携強化によりイノベーション促進を目指した国際的なイニシアチブ(枠組み)で、2019年に開始された。G20の各国・地域から、主にクリーンエネルギー技術の先鞭的な研究を行っている1~3機関が参加しており、日本からは産総研が主催機関ならびに運営事務局の役割を担う形で参加しているほか、物質・材料研究機構(NIMS)ならびに理化学研究所(理研)も参加している。
主な取り組みとしては、G20各国・地域のクリーンエネルギー技術に関連する研究開発や経験・ベストプラクティス・アイディアを交換する機会、また主要な研究機関間での国際共同研究の可能性を探る機会の参加者への提供や、関連する産学官のステークホルダー間の新たなパートナーシップの深化・発展を目指したものとしており、2023年には初めて「RD20サマースクール」と呼ばれる若手研究者に共通の文化とカーボンニュートラルの理解を広めることを目的としたイベントも開催したほか、年一回の会合(RD20)ならびに国際連携が急がれる技術分野への取り組み3つの分野に向けたタスクフォースとしての取り組みが進められてきた。
3つのタスクフォースは以下の通り。
- Solar Energy
- Hydrogen
- Energy Management System
このほか、今回のRD20では、2019年に第1回目が開催された「ギガトン水素ワークショップ」の2回目が10月2-3日にかけて開催される予定だという。第1回は、水素製造技術の社会実装に向けた社会課題の問題抽出の議論を独フラウンホーファー研究機構 太陽エネルギーシステム研究所(Fh-ISE)、産総研、米National Renewable Energy Laboratory (NREL:国立再生可能エネルギー研究所)の3機関でクローズドミーティングという形式で実施したが、第2回となる今回は、RD20の活動として各機関が参加できる枠組みとし、議論の輪を広げることで、国際連携の促進につなげたいとしている。
RD20に参加するG20の各国・地域は世界経済に強い影響力を有しているが、その国・地域ごとに抱える課題が異なっており、そうした壁を乗り越えて研究者同士が連携し、国際連携をどうやって進めていくかがポイントになるという。そうした点では前年開催の第4回RD20国際会議のリーダーズセッションにおいて、以下のような事柄が推奨事項((Leaders Recommendation)として採択されたが、そこに記載されたものの具体的な行動として、アクションコミッティを中心に、事務局と連携して、今後の実行にあたっての実行計画策定を第5回RD20国際会議では目指すとしている。
全体運営
- RD20機関は、リーダーズステートメントの遵守と国際協力の強化に取り組んでいく
- RD20は研究機関の集合体として重要かつ独自の役割を果たすことができる
- RD20機関は、他の国際的なイニシアチブとの連携に取り組んでいく。例えばMission Innovation、CEM(クリーンエネルギー大臣会合)、IEA(国際エネルギー機関)など
具体的な行動
- RD20国際アドバイザリーボードは、RD20事務局と連携してRD20アクション委員会(ワーキンググループ) を招集、主導すると共に、国際協力の進捗を管理する実行計画を策定する任務を負うものとする
- 今後のRD20の年次会議の会場、奇数年(2023、25、…)は日本、偶数年(2024、26、…)は他のRD20各国で行うこととする
- 以下の5つの分野は、RD20機関が既存のリソースを活用しながら国際連携を深めるための出発点としての役割を果たす。(1)サマースクール、(2)コミュニケーション/知見共有、(3)ワークショップ、(4)タスクフォース、(5)研究者交流
福島で開催される第5回RD国際会議の概要
第5回RD国際会議の会期は3日間あり、初日がテクニカルセッションとパネル展示、2日目がリーダーズセッションとパネル展示、そして最終日の3日目が招待制となるがサイトビジットの実施が予定されている。
テクニカルセッションでは、午前中に全体会合(プレナリーセッション)が開かれ、午後は以下の3つのテーマに分かれたセッションが開催される。
- TS1:エネルギー部門の脱炭素化とエネルギー変換に向けた水素技術の適用と影響
- TS2:太陽光発電の大規模装置の環境影響評価
- TS3:CO2有効利用(CCU)の共有価値と統合テーマを中心にモデレータ
リーダーズセッションは、午前はクローズドでタスクフォースやワークショップなどの活動報告が行われるほか、2024年に開催される予定の第6回RD20国際会議やサマースクールの計画説明と議論が交わされる予定。午後は一般公開で、基調講演にはノーベル化学賞受賞者で現在は産総研 ゼロエミッション国際共同研究センター研究センター長を務める吉野彰氏が登壇する予定となっている。吉野氏の講演テーマについては、現在、運営と同氏の間で調整が進められているとのことである。
3日目に開催されるサイトビジットツアーは、2つのルートを予定。ルート1は産総研 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)とデンソー福島、ルート2は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R:Fukushima Hydrogen Energy Research Field)」と、震災遺構(浪江町立請戸小学校)、福島東日本大震災・原子力災害伝承館が予定されている。
このほか、パネル展示では海外研究機関によるグリーン水素に関する研究成果の展示や、ペロブスカイト太陽電池や人工光合成、合成燃料、カーボンニュートラルシナリオなどといった産総研の研究成果の展示、FREAと共同研究を進める日立製作所やトヨタ自動車、三菱重工業などが最新の取り組みに関する成果を披露する予定だという。
なお、産総研では、第5回RD20国際会議において、研究者間で技術的課題や研究開発の方向性を共有し、解決が急がれる技術や課題に関する連携(タスクフォースの設置など)を継続的に検討することを確認したいとしているほか、RD20のタスクフォースとしての活動を公表する最初の事例として、水素LCA(ライフサイクルマネジメント)タスクフォースの成果レポートを年内に書籍としてとりまとめる予定としており、RD20イニシアティブによる国際連携の成果が国際標準化につながることを期待し、各国が開発する技術や製品の海外展開や国際普及を促進させることに貢献していきたいとしている。