ポッカサッポロフード&ビバレッジと農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は8月25日、レモン果汁のマリネ調理が、牛肉の物性と胃消化性に及ぼす効果について研究し、肉質の軟化と胃消化性への影響を解明したと発表した。

調理や飲用に使用される機会が多いレモンは、日常的に摂取されることも多い果物だ。レモンにはクエン酸やビタミンC、ポリフェノールが豊富に含まれており、近年ではこれらの健康機能への注目が高まっているという。

しかし、レモン果汁を調理に用いた際にほかの食材に生じる変化や、レモンを調理した食事を摂った際の栄養成分の消化・吸収に関して、現状においては学術的な報告が少ないという。

そこで今回両者は、牛モモ肉をモデルとして、レモン果汁を使ったマリネ調理による肉質の軟化について検討を実施。さらに、農研機構が保有する「ヒト胃消化シミュレータ」(GDS)を用いて、マリネ調理による胃消化性の向上について評価を行ったとする。

今回の実験では、まず4mm厚にスライスした牛モモ肉をレモン果汁100%液に1時間漬け込んだとのこと。この漬け込んだ肉(以下「Lem100」)と、同様の処理を施していない未処理群(CTL)を、同じ条件下においてIH調理器を用いて加熱調理したという。

そして調理後の肉について、マッソントリクローム染色を用いた構造的変化(肉汁の漏出などによる軟化の有無)の観察、テクスチャアナライザを用いた物性変化(圧縮の荷重などによる軟化の有無)の観察、GDSを用いた胃消化性の解析が行われた。

この解析の結果、構造的な変化については、CTL群においては加熱調理後に筋細胞の収縮および細胞外への肉汁漏出が認められた一方、Lem100群ではこれらの現象が緩和されていたとする。一般的に、肉は加熱調理すると、タンパク質が収縮し肉質が硬化することが知られている。しかしこの結果は、レモン果汁でのマリネ調理によって、加熱調理時に起こる肉の構造変化が抑制されたことを示すとしている。

  • キャプション

    染色した牛肉組織の調理前後での比較(出所:ポッカサッポロフード&ビバレッジ)

また物性変化の観察において、スライス肉サンプルを圧縮した際にかかる荷重は、CTL群に比べてLem100群の方が小さかったとのこと。つまりLem100群は、CTL群よりも小さな力で破断するため、レモン果汁でのマリネ調理が肉の軟化に影響を与えていることが確認された。

  • 物性評価(サンプルの75%が圧縮された際にかかる荷重)の結果の比較

    物性評価(サンプルの75%が圧縮された際にかかる荷重)の結果の比較(出所:ポッカサッポロフード&ビバレッジ)

最後に胃消化性の観察については、各サンプル(60g)を用いてGDSによる消化試験を行い、開始3時間後に胃消化物をふるい分けしたとする。なおふるい分けの基準としては、2.36mm×3.35mmのふるいの網目が用いられた。研究チームによると、この網目の大きさは、胃の出口である幽門よりも大きいサイズだという。

ヒトの体内では、胃で消化されたものは十二指腸以降でさらに消化されるため、胃から十二指腸に向かって次第に細くなる管状の幽門部を通過する必要がある。つまり、幽門部を通過できない大きさの胃消化物は十二指腸への移行が困難であり、消化が進まないもの(未消化と判定)ということになる。

今回のGDSによる実験では、CTL群で見られた未消化分に比べ、Lem100群では未消化分約25%減少(乾燥重量ベース)していたといい、これはLem100群の方がより消化されたことを示すと結論付けている。

  • GDSを用いて観察された消化挙動と未消化物の感想物重量の比較

    GDSを用いて観察された消化挙動(左)と未消化物の感想物重量の比較(右)(出所:ポッカサッポロフード&ビバレッジ)

研究チームはこれらの結果から、レモン果汁への漬け込みによって牛モモ肉の肉質が柔らかくなり、胃での消化性も向上することが示唆されたとする。また、実際の調理時を想定し、レモン果汁とオリーブオイルを2:1の分量で混ぜたマリネ液での試験も行ったところ、同様の結果が得られたと報告している。