人の体にはそれぞれ個人差があるが、その差を測定するには何事も大変な労力がかかる。そんな中、ファンケルは個々人にとっての最適な運動量を簡単に測定できるソリューションを現在開発中だ。そこで今回は、実際に開発中のソリューションを体験しながら、体力を見える化する難しさや開発するにあたっての課題などを同社ヘルステック事業開発タスクチームの方々にお話を伺った。

「適度な運動」とはどのくらいの運動量なのか?

日常生活を送る中で、「適度な運動を行いましょう」と耳にすることがある。適度な運動によって体力の向上をはかることが、生活習慣病や脳機能、肝臓機能などに効果があるとされていることから、毎日の生活の中に運動を取り入れている人も多いだろう。

しかし、自分にとっての「適度な運動量」を知っている人は少ないのではないだろうか。

「脂肪燃焼効果を得るためには有酸素運動を20分以上行うと良い」と言われることがあるが、体力は年齢や性別、身長、体重、筋量、日々の運動習慣などによって異なり、同じ強度の運動を同じ時間行ったとしても出てくる効果には個人差がある。

  • 体力には個人差がある

    体力には個人差がある(提供:ファンケル)

そのため、体力が低い人と高い人が同じ運動量をおこなうと過不足が生じ、場合によっては体に大きな負担をかけてしまうこともあるという。そうならないためにも、各々の適度な運動量を計ることが重要だが、これまで適度な運動量を測定するには、高額な機器を専門家が病院や医療・体育系大学などの専門施設にて使用しなければできなかったとのこと。

そこで、ファンケルはそうした個々人の体力を簡単に見える化できるデバイスの開発に挑戦。新たな発想でその実現を目指しているとした。

運動は中強度以上でやらないともったいない

運動をすることによって生じる運動効率には2つの屈曲点が存在し、その中で運動効率が一気に上がる境界は始めに屈曲する「無酸素性作業閾値(AT)」という点だという。この運動強度と効果は完全な比例関係ではなく、持続できるものの運動効果が薄い「低強度」でも、持続できず体への負担が大きい「高強度」でもなく、ATと呼吸性代償開始点(RCP)の間である「中強度」程度運動することが最も効果的とのこと。

  • 運動強度と運動効果のグラフ

    運動強度と運動効果のグラフ(提供:ファンケル)

とはいうものの、中強度にも個人差があるため測定が必要だが、従来、呼気中の酸素や二酸化炭素の濃度と容積を分析する「呼気ガス分析法(VT)」を用いて測定されていたため、個人が中強度を把握するにはハードルが高かったという。

  • 呼気ガス分析法

    呼気ガス分析法(提供:ファンケル)

そこでファンケルは、VTで測定していた呼気CO2濃度に代替する指標として、「血中酸素飽和度(SpO2)」に注目し、呼気で測定したデータと比較検証を行い、関連性を調べたという。SpO2といえば、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって一般の人でも馴染み深いものとなったパルスオキシメーターで測定できる飽和度としても知られている。

検証の結果、VTで測定していた呼気CO2濃度とSpO2のしきい値であるSpO2 Threshold(ST)の数値には良好な一致と興味深い差異がみられたという。また、臨床試験においてもVTとSTには相関関係が確認され、その成果は国際学術雑誌 「Scientific Reports」に論文として掲載、従来の高額な測定機器に代わるものができるのではないかとの結論に至ったとした。

では、パルスオキシメーターでいいのではないかと思うかもしれないが、動きながら使用することを目的としていないため、運動しながら測定すると数値に誤差が出てしまうことが課題となっており、そうしたことから、ファンケルでは運動に適した新たな測定器「STデバイス・アプリ」の開発を進めている。

  • 「STデバイス・アプリ」のデモ品

    「STデバイス・アプリ」のデモ品

測定のやり方はまず機器を装着し、交互の足で踏み台を使ってステップ運動を行う。機器の装着は親指と手首に取り付けるのみ。そして、1分間ごとに速度を60bpm、80bpm、100bpmと20bpmずつあげていき、踏み台昇降運動ができなくなるまで続けていく。

  • 実際にデモ品のデバイスを装着した様子

    実際にデモ品のデバイスを装着した様子

  • 交互の足で踏み台を使ってステップ運動を行い測定している様子

    交互の足で踏み台を使ってステップ運動を行い測定している様子

結果は、STの測定ができるアプリケーションと連携し、グラフとして抽出される。ATの数値とRCPの数値が測定できるため、その2つの屈曲点の間の「中強度」の心拍数で運動すると最適な効果を得られるということになる。

  • 装着している機器とアプリケーションが連携している

    装着している機器とアプリケーションが連携している

開発デバイスの今後の展望

ファンケルは、2024年度を目標にこのSTデバイスとアプリの開発を予定しているという。使用用途としては、医療、スポーツ、美容など幅広いニーズに対応するべく開発を進めている。さらに、使いやすくした一般向けの機器も今後開発していきたいとしており、美容やダイエット、健康維持を目的とした用途で活用できる未来もそう遠くはないだろう。

また、現在は中強度の数値や高強度の数値を測定できるのみだが、今後あらゆる項目を加えていくほか、機器自体の改良も進めていき、よりスマートで使いやすいものにしていくことで、医療やスポーツ、ヘルスケアといったさまざまな分野における課題解決に貢献したいとしている。

「特別なものがいらないため、いつでもどこでもだれでも使えるのがこの機器の良いところ。精度のクオリティは落とさず、だれでも簡単に測定できるよう開発を進めていきます」と担当者は語っていた。