日本原子力研究開発機構(原子力機構)、J-PARCセンター、熊本大学の3者は8月18日、日本が開発した、亜鉛とイットリウムを含む高強度マグネシウム合金「Mg97Zn1Y2」(以下「LPSO-Mg合金」)が、高温押出加工により強度が大きく増加するメカニズムを解明したことを共同で発表した。

同成果は、原子力機構 J-PARCセンターのハルヨ・ステファヌス研究主幹、同 ゴン・ウー研究副主幹、同 相澤一也研究員、同 川崎卓郎研究副主幹、熊本大の山崎倫昭教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ構造を含む無機材料の全般を扱う学術誌「Acta Materialia」に掲載された。

マグネシウムは、実用金属の中で最も軽い金属として知られる。しかし、その合金は一般的に鋳造時に多くの欠陥を抱えており、変形させると早期に破断してしまう傾向があるという。そのため、押出比の高い高温押出加工などの方法を使って、欠陥を減らして延性を向上させる取り組みが行われているが、この方法では強度の増加は大きくは得られなかったとする。

そうした中で熊本大が化学成分の調整により開発したのが、LPSO相を含んだLPSO-Mg合金で、この合金を高温押出加工することで、延性だけでなく強度も大幅に向上することが確認された。高温押出加工後のLPSO相内には、結晶に見られる変形構造の1つである「キンク帯」が観察された。キンク帯は、滑り面が局所的に曲がっている変形帯状領域、または岩石の劈開面の鋭い屈曲で示される帯状領域を指し、その増加と共に強度が上がることが判明したという。

  • 研究で用いたLPSO-Mg合金と高温押出加工の模式図。

    研究で用いたLPSO-Mg合金と高温押出加工の模式図。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

一方、Mg相は軟質相でありながら、高い押出比の高温押出加工では再結晶が生じ、強度の向上が小さいといわれている。そのため、高温押出条件とLPSO相内でのキンク帯の導入について、詳細な研究が進められている最中だ。

  • LPSO相内のキンク帯。

    LPSO相内のキンク帯。キンク帯とは、地質学用語で、結晶に見られる変形構造の1つ。滑り面が局所的に曲がっている変形帯状領域、または岩石の劈開面の鋭い屈曲で示される帯状領域を指す。LPSO相においても圧縮のような変形を加えるとキンクが発生しキンク帯が残る。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

また研究の過程で、LPSO相の含有量が少ないLPSO-Mg合金において、押出比が低い高温押出加工を行うと試料の強度が大幅に増加する一方、押出比を高くすると試料の強度が低下し、Mg相で再結晶が生じることも判明したという。ただし、その詳細についてはあまり注目されていなかったとのことだ。

これまでのLPSO-Mg合金の研究では、マクロな機械的特性や顕微鏡観察による研究が主流であり、それぞれの構成相の変形に関する詳細な振る舞いは予測の域を出ていなかったという。しかし、押出比が低い高温押出加工によってLPSO-Mg合金の強度がどのように増加するのかを解明するためには、それぞれの構成相の振る舞いを解明することが重要だと考察したとする。

そこで今回の研究では、高温押出加工によってLPSO-Mg合金中のMg相とLPSO相の強度向上のメカニズムを詳しく調査したとのこと。押出比が異なる高温押出加工されたLPSO-Mg合金を用意し、それぞれを引張変形させながら「その場中性子回折実験」が実施された。

  • その場中性子回折実験のイメージ。

    その場中性子回折実験のイメージ。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

実験の結果、押出比が低い条件下では、Mg相の組織が「マルチモーダル」と呼ばれる変形組織と再結晶組織の組み合わせとなることで、試料全体の強度を効率的に向上させる重要な要素であることが初めて定量的に観察されたとしている。

  • 高温押出加工後の組織画像。

    高温押出加工後の組織画像。押出比が低い(5.0)場合、押出方向に伸びた変形組織のMg相とサイズが小さい等軸な結晶粒からなる再結晶組織のMg相が形成され、Mg相がマルチモーダルとなった。押出比が高い(12.5)場合、変形組織のMg相が観察されなくなった。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

変形組織のMg相では、強力な集合組織と高い欠陥密度が強度の向上に寄与している。これは、結晶内の格子ひずみや欠陥の存在により、材料の強度が増加することを意味するという。一方で、再結晶組織のMg相では、細かい結晶粒の存在が強度の増加にも寄与している。細かい結晶粒は境界面を増やすことにより、変形時の結晶欠陥の滑りや境界面の移動を制限することで強度を高めるとする。つまり、Mg相の組織形態を制御することによって、LPSO相による強度増加だけでなく、さらなる強度向上が可能であることが明らかにされたのである。

  • 引張変形中のLPSO-Mg合金の構成相それぞれの強度への寄与。

    引張変形中のLPSO-Mg合金の構成相それぞれの強度への寄与。押出によってMg相・LPSO相とも強度が高められた。押出比が低い(5.0)場合、変形組織のMg相と再結晶組織のMg相の強度寄与増加の合計は非常に大きく全体強度の半分以上を占めている。押出比が高い(12.5)場合、Mg相の強度寄与は押出比が低い場合に比べて小さくなった。その代わり、LPSO相の強度寄与が大きくなった。(出所:熊本大プレスリリースPDF)

具体的には、押出加工条件や熱処理などを適切に調整することで、変形組織と再結晶組織の割合や結晶粒のサイズを調節し、材料の強度を最大限に引き出すことが可能だという。こうした結果について研究チームは、マグネシウム合金の設計や高温加工プロセスの最適化において、重要なガイドラインとなるとしている。

今までの合金設計では、マクロな機械的特性や構成相の平均相応力だけが注目されてきたが、今回の成果により、それらに加えて特定の構成相内の組織形態の個別応力にも着目すべきことが判明した。マグネシウム合金においては、マルチモーダル組織を形成する変形組織のMg相と再結晶組織のMg相の割合・形態を調整することで、強度と延性をさらに向上させることにつながるという。研究チームは、これらの発見によって、LPSO相のような第二相に依存しない単相合金の今後の開発に大きな指針を与えることが考えられると展望を述べている。