熊本大学は8月18日、多施設共同研究により大腿骨骨折患者1395名、非大腿骨骨折患者1075名を登録し、過去に報告されている大腿骨骨折のリスクについて機械学習を用いて網羅的に評価し、8個のリスク因子を同定したことを発表した。

同成果は、熊本大大学院 生命科学研究部の宮本健史教授らの研究チームによるもの。詳細は、骨とミネラルの代謝に関する全般に関する学術誌「Bone」に掲載された。

日本国内における高齢者の大腿骨骨折は年間発生件数が20万件を超えており、さらに増加し続けている状況だという。高齢者が大腿骨の骨折をしてしまうと、生命予後が極めて悪いことが知られている。骨折により日常生活の動作レベルが低下してしまい、その結果として認知症の発症やその進行などによって要介護化およびその段階が進んでしまうほか、高額な医療費の問題など、多くの課題を抱えている。

  • 骨折により日常生活の動作レベルが低下するとさまざまな問題がでてくる

    骨折により日常生活の動作レベルが低下するとさまざまな問題がでてくる

しかし、大腿骨骨折のリスクから骨折の発生を予測し、骨折そのものを予防するこれまでの取り組みは限定的だったという。また、大腿骨骨折の大半は転倒によるものだが、骨粗鬆症に加えて転倒を含めて骨折リスクを予測するツールは今のところ存在しないとする。

そこで研究チームは今回、大腿骨骨折患者1395名と非大腿骨骨折患者1075名に対し、過去に報告されている大腿骨骨折のリスクについて機械学習を用いて網羅的に評価を実施することにしたという。その結果、8個のリスク因子を同定することに成功したとする。各因子の大腿骨骨折発生に対する重要度についても同様に機械学習を用いた評価が行われ、各因子の重要度がスコア化された。

8個のリスク因子は、(1)日常生活動作レベル、(2)ロコモーティブシンドローム、(3)過去12か月以内の転倒歴、(4)1日あたりのお茶の摂取、(5)認知機能、(6)骨粗鬆症の薬物治療、(7)歩行状態、(8)歩行時間。

なお、日常生活動作レベルとは食事やトイレにおける動作など日常生活における自立度のことで、国際的な指標である「Barthel index」を用いて評価が行われている。またロコモーティブシンドロームとは、日本整形外科学会が提唱している移動能力が低下した状態のことで、将来要介護のリスクが高くなるとされている。同シンドロームはその程度に応じてロコモ度1~3に分類され、ロコモ度3が最重症となる。

そして、それぞれの因子について、大腿骨骨折発生に対する寄与度の判定が機械学習を用いて行われ、寄与度に応じて以下のスコア化がなされた。

(1)日常生活動作レベルの低下がある:5点 (2)ロコモーティブシンドロームがロコモ度3と判定される:4点 (3)過去12か月以内に3回以上の転倒歴がある:2点 (4)1日のお茶の摂取が5杯以上:-2点 (5)認知機能障害が少しでもある:2点 (6)骨粗鬆症の薬物治療を受けている:-1点 (7)補助具なしで歩行している:1点 (8)少しでも歩行している:1点

これらを合計し、合計点が5点以上で大腿骨骨折のリスクありと判定されることが明らかとなり、カットオフ値が5点と決定された。

大腿骨骨折は高齢者の代表的な骨折で、今後も増加することが予想されている。同骨折は骨折して初めて自分にリスクがあったことに気が付くことも少なくなく、骨折する前に自身の骨折リスクを知るツールが求められていたという。今回の大腿骨骨折の骨折リスク判定ツールは、病院などでの採血などの検査が不要で機械学習の知識がなくても家庭で実施が可能なものとして設計された。自身にリスクがあると判定された場合には、病院を受診するなどして適切な加療を受けることで、骨折を未然に防ぐことが期待されるとしている。