熊本大学は6月29日、中性子星の一種で、非常に正確な周期で電波シグナルを出すパルサーを長期間にわたって精密観測し、そのデータの解析からナノヘルツの周波数を持つ重力波(ナノヘルツ重力波)が宇宙のあらゆる方向から地球に飛来しているという有力な証拠を得たことを発表した。
同成果は、熊本大大学院 先端科学研究部の高橋慶太郎教授、熊本大大学院 自然科学教育部の喜久永智之介大学院生、同・久野晋之介研究員、同・加藤亮研究員に加え、インド、英国、フランス、ドイツなどの100名弱の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州の天体物理学全般を扱う学術誌「Astronomy and Astrophysics」に2本の論文として掲載された。(論文1、論文2)
中性子星同士やブラックホール同士の合体などで生じる重力波には、さまざまな周波数のものがある。研究チームがターゲットとしているのは、とても低い周波数を持つナノヘルツ重力波だ。これは、2016年に史上で初めて重力波を検出した米国の重力波望遠鏡「LIGO」のような地上施設では捉えられないという。そしてもし検出に成功すれば、また新たな宇宙の観測手段が得られることになるとする。
中性子星の1種であるパルサーは、非常に正確な周期で電波シグナルを出す天体として知られている。その周期は、10ミリ秒程度から10秒程度までさまざまで、このシグナルが地球に到着するタイミングを100ナノ秒の精度で測定できれば、宇宙空間を伝わる重力波を検出することができると期待されている。しかし、これまでこの方法で実際に重力波が検出されたことは無かったという。
そうした中で研究チームはこれまで重力波を検出するために、インドやヨーロッパの電波望遠鏡を用いて、パルサーの観測を25年にわたって継続的に行ってきたとする。特にこの10年間は、シグナルが到着するタイミングを100ナノ秒程度で測定できるようになり、雑音の特性の理解も進んだことで、重力波への十分な感度を持つことができるようになってきているという。そこで今回の研究では、日本・インド合同チーム(InPTA)がヨーロッパチーム(EPTA)と協力し、最長で25年にわたって観測されてきた25個のパルサーのデータを解析し、その統計的な性質を調べたとする。
そして解析の結果、ナノヘルツ重力波が宇宙のあらゆる方向から地球に到来しているという証拠が得られたとしている。また周波数分布は、その重力波が宇宙に多数存在する大質量ブラックホール連星から放出されたものであると考えて矛盾の無いものだったという。
加えて、熊本大などの研究チームと独立した研究成果が、米国およびカナダのNANOGrav、オーストラリアのPPTA、中国のCPTAからも同時に報告され、同様の結論が得られたとする。研究チームを含めた4つのプロジェクトは国際コンソーシアム(IPTA)を形成しており、協力して研究を行っているとする。
研究チームは今後、より多くのデータを取得して雑音を軽減する解析手法を開発することで、重力波を確実に検出できるよう観測精度を上げていくとともに、重力波の周波数分布を精密に測ることで、ブラックホールが宇宙の歴史の中で幾度となく合体して成長し、巨大な質量を獲得するに至ったプロセスを解明することができると期待されるとしている。