地方銀行はクラウドの導入が最も難しい組織の1つだろう。セキュリティが不安というイメージがあったり、保守的なカルチャーが根付いていたりするからだ。そうした中でクラウドを導入し、DXを推進するにはどうすれば良いのだろうか。

7月13日、14日に開催された「TECH+フォーラム クラウドインフラ Days 2023 Jul.ビジネスを支えるクラウドの本質」に北國フィナンシャルホールディングス(以下、北國FHD)/北國銀行 執行役員 システム部長の岩間正樹氏が登壇。「銀行でもできる! クラウドで始める全社DX」と題した講演を行った。

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すでにシステムの4割がクラウド化

北國銀行は石川県を中心に富山県や福井県、その他全国に店舗を構える地方銀行だ。2021年、銀行業務以外についてもさまざまな機能が求められるようになったことを機に、ホールディングス化。投資銀行や投資助言、BPO、コンサルティングなどの機能を持つ多数の会社を設立した。

また、北國銀行は、2000年頃からいち早くDXに取り組んできた。例えば、地元の木材である能登ヒバを使ったシンプルかつ安価なATMを自社開発したり、カード事業ではキャッシュレス端末やデビットカード、ECサイト、おサイフアプリなどのサービスをトータルで展開することで、地域全体のキャッシュレス化を推進している。

  • 北國銀行のDXの変遷

そんな北國銀行のDXを支えているのがクラウドだ。

岩間氏によると、現在北國銀行で稼働している455のシステムのうち約4割はすでにクラウド化しており、今後もその比率は上がっていくという。

「北國銀行におけるクラウド活用は、2017年に個人向けインターネットバンキングをクラウド化したことが発端です。その後、2019年には社内システムをクラウド化し、2020年にはMicrosoft Teams(以下、Teams)を導入、2021年には勘定系システムもクラウド化しました。現在は法人インターネットバンキングのクラウド化に取り組んでいます」(岩間氏)

急速にクラウド化を進める北國銀行だが、実は銀行のような金融機関におけるクラウド導入はそう簡単なことではない。厳重なセキュリティが求められる銀行では、今もなおクラウドへの懸念の声も少なくないからだ。

では、北國銀行はどのようにしてクラウド導入を進めていったのだろうか。

岩間氏はまず、2017年の個人インターネットバンキングのクラウド化について解説する。

「クラウド化以前の個人インターネットバンキングはオンプレやパッケージシステムならではの課題を抱えていました。開発の度にシステムパートナーとの契約が発生するため、スピーディーに開発ができなかったり、操作感が改善できず、自由にカスタマイズもできなかったりといった課題です」(岩間氏)

しかも、一般的にクラウド化に対する懸念となりやすいセキュリティに関しても、むしろオンプレよりもクラウドの方が「圧倒的にスピードや柔軟性があり、クラウドパートナーがセキュリティ分野に対して莫大な投資をしているので安心」だと岩間氏は言う。

こうした課題を解決するためにクラウド導入を検討した岩間氏だったが、当時はクラウドの知見を持つ人間が社内におらず、まずはパートナー企業と共にシステムの刷新に着手した。その際、岩間氏を含めメンバーがベンダーに出向したことで、「技術的なノウハウやマインドを学び、最終的に内製化できるようになった」(岩間氏)そうだ。

また、出向先の企業と当時の北國銀行の環境の違いにも岩間氏は驚いた。

「パートナー企業には、Slackを使ったフラットなコミュニケーションや多様性を尊重する文化があり、アジャイルやDevOps、クラウドネイティブ開発を取り入れた最先端の開発手法が導入されていました。我々からするとショッキングな環境でした」(岩間氏)

この出向で学び、持ち帰った技術や文化が、その後の北國銀行のDXに大いに寄与することになる。