楽天グループは8月2日~6日の5日間、パシフィコ横浜にてグループ最大級の体験イベント「Rakuten Optimism 2023」を開催している。リアルでの開催は4年ぶりだ。ビジネスカンファレンスのオープニングセッションには代表取締役会長 兼 社長の三木谷浩史氏が登壇。「現在、物議を醸してる楽天モバイルについて話す」と切り出した三木谷氏は、同事業で成し遂げたいことについて説明した。
同セッションには、生成AI「ChatGPT」を手掛ける米OpenAI社 CEOのサム・アルトマン氏もリモートで登場し、両社が最新AI技術によるサービス開発における協業で基本合意したことを明らかにし、話題を呼んだ。
楽天モバイルが成し遂げたいこと
楽天モバイルが目指すもの。それは「携帯市場の民主化」だ。「民主化を実現するには、料金を気にすることなく、データ量も無制限に使えることが重要。すべての国民が手軽に、そして自由にスマホを楽しめる社会にしていく」と、三木谷氏は意気込みを述べた。
実際、楽天が2020年にモバイル事業(MNO事業)に参入してから、日本の携帯料金は下がっている。MM総研の調査結果によると、MNOスマホユーザーの月額利用料金の平均は2020年2月時点で6755円だったが、2023年1月には5073円に下がった。
また、総務省の資料によると、携帯料金の低下がなかった想定での2022年の物価指数は103.7だが、実際の物価指数は102.3だった(2020年を100とした場合)。「携帯料金の低下による寄与は約4兆円に上る」(三木谷氏)という。
同社は2022年7月に「0円プラン」を廃止し、2023年6月にどれだけデータ量を使っても月額3278円の新料金プラン「Rakuten最強プラン」を開始した。42.3%の人が「発表を受けて乗り換えたくなった」と回答しており(MMD研究所調べ)、同プランの開始よりMNOの解約率も1.42%まで改善しているという。加えて、契約者数も堅調に推移しており、2023年7月時点でMVNOも合わせた契約回線数は538万を超えた。
携帯の民主化には、「高品質にこだわることも重要だ」と三木谷氏は強調した。「サービス開始当時、知り合いの大手携帯会社社長に『ミッキー、お前は失敗しているぞ』と言われた。しかし、ふたを開けてみれば、他社に引けを取らない品質を実現している。5Gに関しては、ダウンロード速度、アップロード速度のいずれも3キャリアの平均値を上回っている」(三木谷氏)
なぜ、無制限なのに安いのか?
なぜ楽天モバイルのサービスは低価格でありながら、無制限・高品質を実現できているのだろうか。それは、設備投資費を大幅に削減しているからである。楽天モバイルは、国際標準の「Open RAN」を採用して、完全仮想化のネットワークを実現している。
Open RANとは、無線アクセスネットワーク(RAN)を構成する機器の仕様をオープン化し、異なるベンダーの機器を接続しやすくすることで自由度を高める仕組み。特定のベンダーに縛られず、柔軟な設備調達や価格競争により設備投資と運用のコストを削減できる。
加えて、Open RANをもとにハードウェアの機能をソフトウェアに置き換える仮想化技術をネットワーク全体に導入しており、汎用ハードウェアを用いて構築した仮想化プラットフォームの上で、モバイルネットワーク機能を共通化させたソフトウェアとして稼働させることを可能にしている。これらの技術により、初期投資を40%、運用コストを30%削減できるとしている。
「仮想化とは極端に言えば、普通のパソコンの上にモバイルネットワークを作ることができるような技術だ。仮想化技術の発明は、クラウド技術に匹敵するくらい大きなインパクトがある。当社の累積設備投資額は、他社比で80%削減できている」(三木谷氏)
同社は今後、傘下の楽天シンフォニーを通じて、この仮想化ネットワークの技術を世界に展開していく。すでに米国や欧州などで顧客を持ち、2023年1~3月期の売上収益は前年同期比15%増の7600万米ドルだった。
また8月2日には、ウクライナのインフラ再構築に向けて、オランダの通信企業VEONと仮想化ネットワーク分野において協業すると発表した。9月末にはドイツで楽天の技術を使った携帯キャリアがスタートする。「この技術を日本国内だけにとどめない。世界中に展開していく」(三木谷氏)
三木谷氏「乗り換えの煩雑な手間を解消したい」
一方で、三木谷氏は「日本の携帯市場に対して、課題感を拭い切れない」と訴えた。同氏が解決したい課題の一つとして挙げたのが「キャリア乗り換え時の煩雑な手間」だ。
日本では、キャリアを乗り換えるとき、乗り換え元と乗り換え先それぞれで手続きを行わなければならない。携帯ショップでの手続きは待ち時間が長く、オンライン契約では配達時に本人確認が必要(欧州や米国では本人確認が不要)。三木谷氏はこの手間を問題視している。
「キャリアを変えるのは非常に煩雑で面倒。新しい携帯を買うときでさえ、申し込みが面倒だ。本人確認も必要以上にしている。こういった手間をなくし、誰もが簡単に、サインアップできるワイヤレスネットワークにつながっていくことが重要だ」(三木谷氏)