MM総研(MMRI)は8月1日、GIGAスクール構想に向けたICT環境整備の現状と今後の展望に関して、全国の教育委員会を対象に実施した調査結果を発表した。これによると、児童・生徒の端末更新に政府予算を想定する自治体が9割以上を占める半面、個人所有の端末利用を視野に入れる自治体は約1割に留まっている。
同調査は同社が2023年5月に全国1741自治体の教育委員会(1738委員会)を対象として、電話による聞き取りおよびE-mailやFAXによる調査票の送付・回収により実施したものであり、有効回答委員会数は1246。
国公立小中学校では2025年ごろに「児童生徒用の端末更新」や「次世代校務支援システムの導入本格化」などICT環境の大型更新(いわゆるNext GIGA)を迎える。
児童生徒用端末の更新に想定している財源を見ると、94%の自治体が政府のGIGAスクール関連予算を想定している。うち約3割の自治体は独自予算を組むことも想定しているが、政府予算を前提とし、追加で必要になる部分に独自予算を充てていく考えだという。
保護者負担を検討している自治体は、2%に留まった。家庭負担には目的や意義の説明、経済格差への配慮などの必要もあり、現環境でICT活用に注力する教育委員会は、整備の前提が大きく変わることは選択肢としにくいものと同社は想定する。
保護者負担も取り入れながら端末整備をする場合を想定し、次回更新で最も家庭負担の少ない個人所有の端末利用(BYOD)で運用できるかを尋ねたところ、「全く問題なく運用できる」との回答は1%に過ぎず、「多少問題は出るが運用できる」を合わせても1割強に留まっている。
アプリの動作環境やトラブル対応に加え、ゼロ・トラスト・セキュリティ対策など、運用にあたってのハードルがいくつもあるためと同社は見ている。
文部科学省は2025年から「次世代校務支援システム」の導入を本格化させる予定だが、次世代校務支援システムのインフラについて方針を決めている自治体は約4割に留まる。2023年度から政府の実証が始まり詳細な仕様はこれからのため、決めかねている自治体も多いようだと同社は見る。
方針を決めた自治体では「クラウドを利用する」が78%と多数を占めた。内訳はSaaS型の利用が42%を占め、次いでPaaS型/IaaS型が36%となった。特にSaaS型はイニシャル・コストや運用負荷を下げやすいことが主な理由と同社は考えている。一方で、オンプレミス型を堅持する自治体も22%あった。
基盤はクラウド活用を推進する流れだが、ネットワークでは課題も出ているという。
例えば、回線については校務系と学習系(インターネット系)を統合するとの回答は約1割に留まり、接続は2層ないし3層に分離したままの自治体が大半だったとのこと。「教育委員会独自のセキュリティポリシーを策定していない」(全体の約4割)や、「LGWAN経由で校務支援システムを利用している」(全体の約1割)といった自治体は、行政側(総務省管轄)のポリシーやネットワーク構成に従った運用との調整が必要となり、一足飛びに文部科学省方針には沿えないと同社は指摘する。
クラウド基盤を活用するという方針に沿ってネットワーク構成を最適化できないことで、システム全体のコストアップや複雑な運用、利便性の低下を強いられるリスクもあると同社は見ている。
また、教員が持つ校務用端末と学習指導用端末を1台化する自治体は25%に留まっており、このまま進むと、多くの自治体では校務支援システムがクラウド化しても、教員には教室に端末を2台持って行く、学習用端末の情報を校務用端末に手作業で転記するといった負担が想定されるという。
今回の調査は文部科学省の生成AI(人工知能)ガイドライン発表前に実施したが、教育委員会に生成AI(ChatGPTなど汎用AI)の利用について、推奨や制限などの指針を持っているか尋ねたところ、回答を得た1185自治体のうち、児童生徒の活用を推奨する方針の教育委員会は5団体(1%以下)にとどまり、96%に相当する1132自治体は、推奨も制限もしていないと回答した。
活用を推奨する方針と回答した5団体のうち4団体が人口5万人未満の自治体であり、3団体は小中学校の児童生徒数が1000人未満、市町村区分でも町や村だった。最も規模の大きい自治体でも児童生徒数は1万人を超えていない。
この5団体は、プログラミングや英語教育などのデジタル活用、もしくは自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)など、イノベーションにデジタルを活用しているという。
同社の中村成希取締役研究部長は「デジタル新技術を活用する場合、必ずしも組織の規模や地域差は関係なく、人材確保や技術サポートがあれば小規模組織の方が俊敏に対応できる可能性を示している」とコメントしている。