資源循環型社会の実現にむけ、2040年までに「ごみゼロ」(プラスチック包装容器の使用量とプラスチック再資源化に関与した量が等しい状態となることを意味する)を目指し、さまざまな環境活動に取り組む花王。
その中で今回は同社が進める「使用済みつめかえパックの水平リサイクル技術」についてお話を伺った。
これまで花王は、「リデュース」(減らす)や「リユース」(再利用する)の観点から、内容物を濃縮し容器をコンパクトにしたり、つめかえずに繰り返し使える「スマートホルダー」などの製品開発を行うなど、容器自体のプラスチック使用量を削減してきた。
また、素材自体を石油由来から持続可能な素材へ転換を図り循環しやすくさせる「リプレイス」(置き換える)、使用済みプラスチック包装容器の再資源化を促進する「リサイクル」(再資源化する)にも取り組んでおり、4Rの観点で活動を推進している。
そうした中、花王は世界的にみても難しいとされている、自社が販売する使用済みつめかえパックから再度つめかえパックを作る「水平リサイクル」に挑戦。すでに同技術を採用した「アタック ZERO つめかえ用(1,620g)」を一部店舗にて数量限定販売するところまで進めている。
つめかえパックと水平リサイクルの壁
普段よく目にするつめかえパックはどういった素材、構造でできているかご存知だろうか。つめかえパックは、およそ100~250μmの薄いフィルム状となっており、温度や湿度、紫外線といった外的な要因から「内容物を保護する」という重要な役割を果たすために、多層構造になっている。具体的には全体の80%をポリエチレンが占め、そのほかにポリアミド(ナイロン)やポリエステル(PET)、アルミ箔、インクなどあらゆる素材から構成されている。
しかし、これは基本的な割合であり、素材の層構造は製品によって異なっているという。そのため、すべてのつめかえパックを同じプロセスで水平リサイクルすることは、再度つめかえパックに戻す際の異物となり、商品としてだせるフィルムにならず難しいとされていたとのこと。実際に初めのころは、つめかえパックに含まれるアルミ箔やインクなどが粉砕しきれず異物として残っていたため、フィルムに孔(あな)があき、使用できない事態が起きていたとする。
そこで、アルミ箔が含まれるつめかえパックを人の手で取り除く工程を導入。ほかにも異物を低減させる工程を取り入れ、孔のないフィルムができたかに思えたとする。しかし、製品化に向けて容器の基材面に印刷を施すと、ぷつぷつとした凹凸がフィルムに散見されたという。
この凹凸は一瞬見ただけでは気づかない程度のものであり、気にしなくても良いのではと感じる人もいるだろうが、凹凸があるとフィルムとフィルムがしっかりとくっつかず中身が漏れ出す危険性があり、「内容物を保護する」という本来の役割から離れてしまうため、なくす必要があるとのこと。
ここで再度、研究開発が行われた結果、原因は粉砕や混練で分散されていたPETやナイロンなどが、混合の過程で凝集・肥大化したことでできる異物であることが分かったという。そうして繰り返し行われてきた研究開発の結果、導きだされたのが「つめかえパックの一括リサイクル技術」だとした。
つめかえパックの一括リサイクル技術
「つめかえパックの一括リサイクル技術」では、レーザーフィルターを新たに採用し異物をろ過したことで、PETやナイロンを含む異物を物理的に除去することに成功したほか、レーザーフィルターで取りきれなかったPETやナイロンが、混合過程で凝集し異物となることを防ぐため、相溶化剤を添加しているとする。東ソーとの共同開発により、従来よりも凝集防止効果が高いポリエチレンに混ざり合う相溶化剤ができたことで、異物を最大限抑制することができるようになったという。
さらに、製膜機によるフィルム化工程での温度最適化を導きだし、素材の性質を保ちながら凝集の発生を抑制する技術を導入。それぞれ溶解温度が異なるポリエチレンと、PET、ナイロンの中で、水平リサイクルに必要なポリエチレン素材の性質を損なうことなく、PETやナイロンなどの不純物の溶解が十分にできる温度の最適化が行われたことで、素材の性質を保ちながら、凝集の発生を抑制できるようになったという。
水平リサイクルのさらなる課題感
技術面では着実に研究開発が進んでいるかのようにみえる水平リサイクル事業。しかし、仕組みづくりの面ではまだまだ課題があるという。
現在は自治体や企業、流通と協力し、「リサイクリエーション」として消費者と共働して使用済みつめかえパックを回収。一度使い終えたつめかえパックに、技術や知恵、アイデアを加えることで新たな価値を創出したいとの思いから、使用済みつめかえパックをブロックにしたり、自治体に合わせたゆかりのものに変える取り組みをこれまで進めてきたという。
研究開発に加え、こうした周囲と協力関係を構築していく努力もあり水平リサイクル技術が確立しつつあるわけだが、より多くのつめかえパックを回収するにはどうしたらよいか、回収の際に洗浄をしてから出してもらうなどの消費者の理解を促すにはどうしたらよいか、さらに、このリサイクルコストの多くをメーカーが負担しているため、本格展開に向けては、これらをどう考えていくか課題があることを担当者は語っていた。
原油コストが上昇している現在であっても、新たな容器を作るほうがコストが抑えらえるという側面もあるなか、環境問題を他人事にせず、難しいとされるリサイクル事業に対して高い技術力で挑む花王。水平リサイクルの仕組みを確立し、資源循環型社会の実現に近づくには、消費者もこうした取り組みを進める企業と同じ志を持って生活をしていく必要があるのではないだろうか。