6月1日からウォーターズ竹芝で開催されている「ウルトラセブン IF Story『55年前の未来』 Case File AR196814 港の巨大宇宙ロボット」。ウルトラセブン55周年に「現代の技術で向き合う」というコンセプトの下、ARを使った体験型イベントとなっている。

イベントの企画背景や実現までのエピソードについて、円谷プロダクションと本イベントを主催するNTTコノキューに聞いた。

  • 左からNTTコノキュー 吉田悦郎氏、福間友児氏、円谷プロダクション 谷岡拡氏

ウルトラセブンに「現代の技術で向き合う」

1967年から68年にかけて放送された『ウルトラセブン』は、不朽の名作として知られる特撮作品だ。今も続編やリブート作品なども制作されるなど、今なお高い人気を維持している。

生誕55周年を迎え、記念企画としてさまざまなキャンペーンが実施された。その中でも「現代の技術で向き合う」とのキーワードの下、実施されたのが「ウルトラセブン IF Story『55年前の未来』 Case File AR196814 港の巨大宇宙ロボット」である。

同イベントの狙いは、令和の人々に、55年前に放送された『ウルトラセブン』の世界観を伝えることだ。円谷プロダクション 製作本部 IMAGINEERING プロジェクトマネージャーの谷岡拡氏は、本イベントについてこう語る。

「55年前に作られたコンテンツですが、作品が持つ『共存』や『対話』といったメッセージ自体は全く古びていません。現代の技術を取り入れながらも、原作が持つメッセージを大事にして、今の世代の人たちに改めて伝えていきたいと思いました」(谷岡氏)

  • 谷岡氏は「ウルトラマンオーブ」など数々のウルトラマンシリーズの制作にも携わってきた

今回のイベントはNTTコノキューが提供するARアプリケーション「XR City」を使った体験型の謎解きとなっている。では、現代の技術や作品のメッセージはどのようにストーリーへ盛り込まれているのか。筆者はイベントを実際に体験した上で、谷岡氏およびNTTコノキューのプロジェクトチームに話を聞いた。

ストーリーと難解な謎解きで大人も遊び応えがある

本イベントは東京湾を一望できるウォーターズ竹芝で開催されている。プロローグの部分は無料で体験できるが、その後は現地に潜む“協力者”から謎を解くカギが記された資料一式を購入する。

イベントでは、『ウルトラセブン』の原作にも登場する主人公のモロボシ・ダンやヒロインの友里アンヌが登場。アンヌをサポートする「PARTY」というグループの支援を受けながら、科学者連続失踪事件の裏に潜む宇宙人の影を追う。

購入したキットには失踪した科学者たちからの暗号やアイテムの作り方などが記されている。参加者は物語の端々から得られるヒントを使って謎を解き、事件を解決に導いていく。謎解きの種類は多岐にわたり、大人でも柔軟な思考力がないと先に進めない設計だ。

ユーザーが購入するキット

協力者たちとの情報交換はLINEのトーク画面上でスムーズに行えるほか、宇宙人や怪獣、ダンやアンヌらとの交信には「XR City」を活用する。協力者から提供された「ネオ・ウルトラアイ」というアイテムをXR Cityにインストールすることで、「人間の目では見えないもの」を観られるという設定だ。

同イベントでは、原作でもウルトラセブンを苦しめた強敵ロボット・キングジョーが参加者の前に立ちはだかる。LINEで指示された位置からXR Cityを起動すると、眼前にキングジョーが降着している。まるでその場に巨大ロボットがいるような臨場感はXR Cityならではの演出だ。

ストーリーには原作でも重要視されていたメッセージが込められており、幼少期からウルトラマンシリーズの大ファンである筆者は謎解きと進行に熱中してしまった。イベントの体験終了まではほぼノンストップで進めたが、それでも2時間を要した。ウォーターズ竹芝には休憩スペースなども併設されているので、これから体験する読者の方々は適度な休憩を取ってほしい。

  • XR Cityを使った実際のプレイ画面

XRの専門家が実現したウルトラセブンの“再解釈”

体験翌日、谷岡氏とNTTコノキューで本イベントを担当した福間友児氏、吉田悦郎氏の3者に、本イベントの裏側を聞いた。

XRの“オールスター軍団”であるNTTコノキュー

  • 吉田氏は「ここぞの場面でARが登場する」と本イベントの見どころを語ってくれた

円谷プロダクションはかねてよりNTTドコモとの結び付きが強い。例えば、円谷プロ作品の動画配信プラットフォーム「TSUBURAYA IMAGINATION」もこの2社のタッグで作られている。そうした関係性もあり、「ウルトラマンシリーズを現代の技術で表現する」手法を探していた円谷プロダクションに、パートナーとして手を挙げたのもNTTドコモグループのNTTコノキューだった。

NTTコノキューはNTTグループの各企業からXRを専門とした人材が集結して設立された、いわば“XRのオールスター軍団”とも言える。吉田氏は「開発メンバーも企画メンバーもそろっているので、かなえたい技術をうまく商品化できるところが強み」と語る。

同社が開発したXR Cityは、ARの技術がすでに組み込まれたプラットフォームだ。XR Cityを使えば簡単にAR環境を実装できるため、コンテンツメークに集中できるのも企画側にとっては大きな利点となる。吉田氏は「弊社はARやVRなどのプラットフォームを総合的に提供している専門会社。そういった業態を持っている企業は少ない」と話す。

ファンが違和感なく楽しめるアイテム「ネオ・ウルトラアイ」

今回のイベントは円谷プロダクションとNTTコノキューのコラボ企画第1弾であり、その内容は先述の通り『ウルトラセブン』を現代の技術で表現したものとなっている。

谷岡氏は「ウルトラマンシリーズはその時点での最新の映像技術を取り入れることで日々進化してきた。55年前に作られた『ウルトラセブン』の良さを次の時代に発信していくために、現代の技術と作品のメッセージを大事にしたかった」と企画の背景を語った。

NTTコノキューで企画を担当した福間氏は「この企画が出たときに1人のユーザーとして『私が見たい』と思ってしまった。ARと特撮の相性はとてもいいと思っていて、ユーザーに魅力を感じてもらえる作品になった」と手応えについて話す。

実際に、本イベントで活用される「ネオ・ウルトラアイ」はARとの相性がよく、ARコンテンツを楽しむハードルを下げることができたそうだ。

「多くの人にとって、何もない空間にスマートフォンをかざしてARを起動することは私たちの想像以上に違和感を覚える行為です。今回、XR Cityがネオ・ウルトラアイの役割を担うことで、ARを見る行為を自然に行ってもらいたいと思いました」(福間氏)

また本イベントはAR以外の謎解き要素にも力を入れている。すでにファンが多く楽しみ方が確立されている「謎解き」をベースに、ARがイベントの体験価値をアップデートする狙いだ。紙の資料を使ったアナログな要素も含んでいることで、ARの存在を起承転結の「転」にあたる演出として際立たせている。

  • 福間氏は普段ご家族と一緒にウルトラマンシリーズを楽しんでいるという

この企画では終わらないウルトラセブン×NTTコノキューの展望

こうした細かなストーリー・システムの設計により、本イベントはウルトラマンシリーズのファンだけではなく、謎解きイベントのファンにも楽しんでもらえるものになっている。円谷プロダクションの狙いである「最新の技術を使って『ウルトラセブン』というコンテンツを多くのイベント参加者に楽しんでもらう」ことが実現できているのだ。

福間氏は「今後、AR技術が当たり前になると信じて我々も制作している。ARを使うことに身構えず、シンプルに1つの物語を楽しめるイベントとして参加してほしい」と本イベントへの思いを述べた。

本イベントを皮切りに、東京以外でもウルトラセブン×NTTコノキューのイベントが開催される予定だという。

現在一部が公開されているウルトラセブン55周年のコンセプトムービー「ウルトラセブン IF Story『55年前の未来』」も、今秋に完成版がリリースされる。55周年企画はまだまだ終わらない。

谷岡氏は「“ウルトラセブンの物語が現代を舞台にどのように紡がれるのか”を円谷プロダクションとして表現したい。55年前からウルトラセブンが伝えてきた『共存』や『対話』といったメッセージが、現代でどのように解釈されるかにも注目してほしい」とファンへのメッセージを贈った。

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