京都産業大学(京産大)は7月18日、周期6年半ほどの短周期彗星である「ジャコビニ・ツィナー(ジャコビニ・ジンナーなどとも呼ばれる)彗星」(以下「GZ彗星」)が2018年に地球に接近した際、独自に開発した偏光撮像装置を用いて観測を行い、今回そのデータを詳細に解析したところ、同彗星に含まれているダスト(塵)について、その粒子サイズの分布が彗星コマの中の位置によらず均一であることが明らかになったと発表した。

同成果は、京産大 研究機構の新中善晴氏、同・大学 理学部・神山天文台長の河北秀世教授らの研究チームによるもの。詳細は、惑星科学とその関連分野を扱うオープンアクセスジャーナル「The Planetary Science Journal」に掲載された。

GZ彗星は"変わり種"として知られており、他の彗星とは異なる特殊な環境で形成された可能性が指摘されている。その分光学的特性は「ジャコビニ・ツィナー型」と分類され、これまでに観測された全彗星の約6%に過ぎない。このタイプは多くの彗星が共通して含む分子(C2をはじめとする炭素を含む分子、NH2、揮発性の高い分子など)がいずれも欠乏している点が大きな特徴で、GZ彗星は可視光連続光成分の偏光度についても負の傾き(一般的な彗星は正の傾き)が示されている。

研究チームは2018年9月16日にGZ彗星が地球に接近した際、中間赤外線や可視光高分散分光などの観測を実施。さらに、GZ彗星に含まれるダストの性質を探るため、偏光度の空間分布を取得することを目的として、独自に開発した偏光撮像装置「PICO」を国立天文台の50cm公開望遠鏡に搭載しての観測も行った。

中間赤外線観測による成分分析では、GZ彗星が高温環境下で生成しやすい複雑な有機分子を豊富に含んでいることを確認。さらに可視光高分散分光観測の結果、昇華温度が低いCO2の水分子に対する存在量比が小さいことも判明した。これらはいずれも、GZ彗星が他の彗星よりも高温度の環境下で形成されたとする仮説を裏付けているという。

  • 彗星の模式図

    彗星の模式図(出所:京産大プレスリリースPDF)

GZ彗星はまた、例年10月初旬に観測される「10月りゅう座流星群」の母天体と考えられ、同流星群は流星発光中にバラバラになりやすいことが知られており、その流星体は多孔質でもろい物質と推測されていた。このことから、GZ彗星から放出されるダストも壊れやすいのではないかと予想されていたとする。

その一方で、GZ彗星のダストの成分として有機分子が豊富に含まれていることが明らかにされたことから、彗星コマ環境では壊れない可能性も浮上してきたという。つまり、ダストが壊れやすいのかそうではないのか、GZ彗星については未解明だったのである。

  • 流星群と彗星の関係

    流星群と彗星の関係(出所:京産大プレスリリースPDF)

そして、PICOによる偏光観測で取得されたデータの基礎解析において、均一な偏光度を示す可能性があることが確かめられた。そこで今回の研究では、ノイズ源となる彗星の背景を通過する星の影響を可能な限り取り除いた上に、核から離れて暗くなる(カウントが少ない)場所について、特に丁寧に解析することにしたという。

その結果、彗星核の中心から>1万kmにわたって偏光度が変化していないことが突き止められたとした。これは、彗星から放出されたダストの粒子サイズ分布がコマの場所によらず均一であり、ダストが大規模には崩壊していないことが示されているという。この結果は、有機分子が豊富に含まれるダストは彗星コマ環境では崩壊しにくいというこれまでの研究で得られた知見を支持するものとした。物質同士をくっつける「のり」として作用する有機分子は、彗星コマの環境下では昇華しにくいためだ。

  • ジャコビニ・ツィナー彗星の偏光度

    ジャコビニ・ツィナー彗星の偏光度(神山天文台グループ:2018/8/16UTC)(出所:京産大プレスリリースPDF)

  • ジャコビニ・ツィナー彗星の偏光度の空間分布

    ジャコビニ・ツィナー彗星の偏光度の空間分布(神山天文台グループ:2018/8/16UTC)。(出所:京産大プレスリリースPDF)

GZ彗星のダストが起源とされる10月りゅう座流星群の流星体が、大気飛翔中の発光途中でバラバラになりやすいという特徴は、彗星コマで大規模なダスト崩壊は見られないという解析結果と一見矛盾するように思われる。しかしこの現象については、ダストの主成分が有機分子だった場合、コマ内の環境(最大で数百℃)では昇華しないのに対し、流星体であるダストが大気に突入する際に最大で1万℃まで加熱されることから有機分子の昇華が起こって「のり」の作用が失われ崩壊したと解釈することで説明が可能とした。

  • 10月りゅう座流星群

    10月りゅう座流星群(c) Robin Lee via Getty Images(出所:京産大プレスリリースPDF)

どの彗星についても偏光観測を行えば、彗星ごとのダストの性質を明らかにできるという。GZ彗星から検出された有機分子が他の彗星にも普遍的に存在するかについても、分析を深めることができるとする。研究チームはこうした研究を足がかりとして、彗星ごとのダストの性質の違いや約46億年前の原始惑星系円盤内の微惑星形成プロセスの解明、ほかの惑星系との比較など応用研究への幅広い展開が期待されるとした。