京都大学(京大)と東邦大学(東邦大)は7月10日、スーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」を使い、連星中性子星の合体に対する既存の10倍となる世界最長の合体後1秒間の一般相対性論シミュレーションに成功したことを発表した。

同成果は、京大 基礎物理学研究所の木内建太特任准教授(独・マックスプランク 重力物理学研究所 グループリーダー兼任)、同 柴田大教授(独・マックスプランク 重力物理学研究所 所長兼任)、同 林航大大学院生(現・研究員)、東邦大 関口雄一郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

  • 中性子星合体後約1秒の様子

    中性子星合体後約1秒の様子。中心にはブラックホールが存在する。(左)物質が放出されていく様子。(中央)密度場、ブラックホールの周りにトーラスが形成されている様子。(右)磁場強度、強磁場が円盤中で生成される様子 (出所:京大プレスリリースPDF)

2017年8月、米国の重力波望遠鏡「LIGO」によって、連星系を形成していた中性子が合体したことによる重力波が初めて検出された。これにより、重力波の検出と電磁波(光学と電波)望遠鏡による観測を組み合わせた、マルチメッセンジャー天文学が始まったといわれている。

一方で、この中性子同士の合体で重力波が生じたことは分かったものの、合体で一体何が起こったのかは詳細に理解されていなかったという。中でも特に理解が望まれているのが、鉄よりも重い重元素がどのように合成されたかであり、こうした謎の多い中性子星について理解するには高精度の理論計算が必要だという。そこで研究チームは今回、「数値相対論法」を用いて合体する2つの中性子星の世界最長のシミュレーションを試みることにしたとする。

今回のシミュレーションで扱われた中性子星の質量は太陽質量の1.2倍および1.5倍で、これは2017年8月に重力波が観測された連星中性子星の合体におけるパラメータと同じものである。シミュレーションそのものは、理化学研究所が運用する「富岳」を用いて7200万CPU時間をかけて実施された。

この長時間シミュレーションによって中性子星合体の物理について多くのことが明らかになったという。例えばコバルト以降の重元素は、中性子星の合体中や合体後に物質が系から放出される際に合成されることがより明確になったとした。

また、物質が合体後の約0.01秒から放出されることも発見され、0.04秒後にはこの「動的質量放出」はピークに達し、合体後の約0.3秒後に今度は合体時に形成されたトーラスから物質が再び放出されることも確認されたという。この動的質量放出は合体時の潮汐力と衝撃加熱によるものだが、合体後の物質放出はトーラス内の磁気乱流によるものであるとし、今回初めて首尾一貫したシミュレーションで示されたとした。

なお研究チームでは、重力波と電磁波を観測し精緻な理論モデルと比べることでさまざまなことが理解されるようになってきており、この結果は宇宙分野に限らず原子核物理や素粒子物理学にも大きな波及効果を及ぼすだろうとしている。