香川大学、慶應義塾大学(慶大)、情報通信研究機構(NICT)の3者は7月7日、シリコン光集積回路を用いたユニバーサルな量子分類器の原理検証実験に成功したと共同で発表した。
同成果は、香川大 創造工学部 材料物質科学コースの小野貴史助教、慶大のヴォイチェフ・ロガ特任講師、同・武岡正裕教授、NICTの藤原幹生研究センター長、同・三木茂人室長、同・寺井弘高上席研究員、同・和久井健太郎主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
近年、機械学習の手法を量子回路へ適用した、量子機械学習アルゴリズムに関する研究が活発だ。機械学習の中でも、分類器は「教師あり学習」の一種で、教師データに基づいて入力データをある特定のカテゴリへ分類するものであり、通常、量子分類は量子状態への入力データのエンコード、量子状態操作、量子測定の3ステップで実行され、その実装モデルに依存して分類器の特性が決まるとする。
量子分類器を実装する手法の1つに、量子回路を並列的に準備し入力データの情報を分散的に記憶させる、ニューラルネットワークのモデルを用いたものがある。一方で、この手法を拡張するには、複数の量子回路とキュービットを並列的に準備する必要があり、その実装には理論的にも実験的にも難しいという課題があったという。
その中で近年、「Data Reuploading」という手法を利用することで、1つの量子ビットで量子分類器が実現可能であることが判明。同手法は、量子回路を複数のレイヤーに分割しそれぞれの量子回路へ逐次的に入力データの情報を記憶させるというもので、特に量子回路のレイヤー数を増やすことで、漸近的にユニバーサルな分類器を実現することが可能だとされた。一方で、同手法の光量子回路への適用方法については明らかになっておらず、光量子回路を使った実装は報告されていなかったとする。
そこで研究チームは今回、Data Reuploadingによる分類手法を光量子回路へ適用する手法を構築し、ユニバーサルな光量子分類器が実現できることを提案すると共に、シリコン光集積回路を使って量子分類器の実現を試みることにしたという。
まず、光干渉計を多段に組合わせプログラマブルな光集積量子回路を実装し、Data Reuploadingの手法を用いて光量子回路の学習が行われた。今回の原理検証実験では、光量子回路へ入力される光子数が平均して2個程度になるまでレーザー光強度を減衰させ実験を実施。初段の回路を使って任意の量子状態が準備され、準備された量子状態を使って後段の光量子回路の学習が行われた。
さらに、2次元の入力データを想定し、2次元のデータで指定される点が円の内側にあれば負、円の外側にあれば正といった具合に分類が行われ、200個の教師データを使って量子回路を学習させ、その学習させた回路を使って任意の入力データが分類された。その結果、約94%の正答率でデータを分類することに成功したという。
同研究チームは、今回の原理検証実験でレーザー光を弱めた疑似光子源が利用されたことに対し、今後は量子もつれ光子を利用することでさらなる分類器の発展が期待されるとした。また、近年シリコンフォトニクスを利用した量子情報処理分野は急速に発展しているため、今回の成果は実用的な光集積量子回路の応用への第一歩になるだろうとしている。