アルマ望遠鏡は7月4日、ペルセウス座方向で地球から約1000光年の距離にある原始星「ハービッグ・ハロー211」周辺の円盤を構成している塵の広がりを、真横の方向(エッジオン)から詳細に観測することに成功し、円盤の赤道面近くに生じた渦巻構造の腕の一部を明らかにしたことを発表した。
同成果は、台湾 中央研究院 天文及天文物理研究所の李景輝氏(国立台湾大学)、同・詹凱勳氏(国立台湾大学)、同・アンソニー・モラハン氏らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
太陽系外惑星系の形成に関する研究において、恒星として核融合が始まって光り出したばかりの原始星の段階では、その周囲にある円盤が重要な役割を果たしている。中央の原始星がより進化した段階へ成長していくことを促進するばかりでなく、円盤自体が原始惑星系円盤へと進化していき、惑星を形成する現場となっていくのである。
今回観測された原始星ハービッグ・ハロー211は、重力崩壊が始まって3万5000年位しか経っていないと考えられている、非常に若い天体だ。円盤を構成する塵から放出される電波をアルマ望遠鏡で検出して作成したマップによれば、中心の原始星から円盤の外側までは太陽~天王星間(約20天文単位で、太陽~地球間の約20倍)程度にしか離れておらず、とても小さな円盤だという。また円盤には厚みがあり、まだ十分に塵が赤道面に沈殿していないことから、惑星の形成が進行するにはもうしばらく先になることが示されているとする。
今回の観測では、円盤をほぼ真横から観測していることになるが、赤道面に沿った形で3つの線状に並んだ明るい構造が確認された。このようなちょうど3層に重ねられたパンケーキのようになっている構造は、今まで観測されたことがなかったという。
これらの3層に重なっているような構造は、一様に広がる円盤構造を背景にしているように見えることから、研究チームは上述の観測データから作成されたマップに対してハイパスフィルタを適用し、コントラストを際立たせて、3層構造をよりはっきりと見えるように調整を施したとのこと。その結果、マップの左側と右側に見える線状の構造は、より温度が高い円盤の表面から放出される電波を捉えているものと考えられるとする。
研究チームが今回観測された円盤のモデルを作製したところ、円盤表面に広がった構造が示されるものとなった。より重要なのは、中央の赤道面上の構造で、円盤の回転軸に関して非対称な経常をしているという(軸の上側と下側で長さが異なっている)。なおこれについては、円盤の重力によって励起された渦巻構造の腕と考えられるとしている。
より進化の進んだ段階の原始星の円盤を観測した今までの観測例では、渦巻構造が形成されているものも観測されており、今回の観測結果は、原始星に共通して渦巻構造が形成されることを支持するものになるとする。また、こうした渦巻構造の腕が形成されて円盤物質が中心星へと持ち込まれ、円盤物質が中心星へと落ち込んでいくプロセスが促進されるものと考えられるという。さらに、観測された渦は塊状になっているように見受けられることから、ここから惑星の形成が始まる可能性もあるとした。
研究チームは今回の観測によって、生まれて間もない原始星周辺における円盤形成と円盤物質が中心星に落ち込んでいくプロセスに制限を与えることができるようになるとしている。