大阪大学(阪大)と北海道大学(北大)は7月3日、導電性ポリマーの分子細線が立体配線材料として利用でき、これを用いて脳のように学習可能な脳型コンピュータを実現し得ることを明らかにした。

同成果は、阪大大学院 理学研究科/北大大学院 情報科学研究院の赤井恵教授、北大大学院 情報科学院の萩原成基大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。

  • 導電性ポリマー立体配線のイメージ

    導電性ポリマー立体配線のイメージ(出所:阪大)

既存のハードウェアにソフトウェアとして実装された従来のAIは、電力消費が多いことが課題であると知られている。それに対して、ヒトをはじめとする生物の脳は、高度なリアルタイム処理を圧倒的な省電力で行うことができる。これは、脳の構成単位である神経細胞(ニューロン)とそれらをつなぐシナプスが織りなす、高密度な3次元ネットワークがもたらすダイナミクスに起因していることが理由と考えられているという。

そうした中で、近年になってAI処理を加速させる次世代ハードウェアとして、脳の仕組みを物理的に模倣した「アナログ脳型コンピュータ」が注目されている。しかし、それらは実際の脳の3次元構造とは大きく乖離しており、その性能を十分には引き出せていなかったとした。

そこで研究チームは、脳のごとく溶液中で電解重合成長し、電極間を配線可能な導電性ポリマー細線を用いることで、脳内の3次元的な局所結合を忠実に再現することを試みることにしたという。

結果、溶液中に配置された複数の立体電極間へ重合電圧を印加することで、導電性ポリマー細線が3次元的に成長する様子が観測されたとした。なお、通常ポリマーは絶縁体だが、ドーピング処理を施すことで高導電性が付与されている。

  • 実際に実現された導電性ポリマー立体配線の光学顕微鏡像

    実際に実現された導電性ポリマー立体配線の光学顕微鏡像。それぞれ基板表面から0及び100マイクロメートルの高さの位置にピントを合わせて撮影された(出所:阪大)

また、電圧印加時間を制御することで配線本数を制御でき、これを用いて各電極間抵抗値を所望の値へと高精度で制御し得ることも示されたという。

これらは、「軸索誘導」による脳内ネットワークの形成過程と、「シナプス可塑性」による脳の学習過程に対応づけられるとし、実際に、ニューロン同士の相関関係を生理学的な学習ルールである「ヘブ則」に基づいて学習させることに成功。ネットワークに連想記憶を与えられることが示されたという。

  • 連想記憶学習時において各電極に流れる電流値の推移

    連想記憶学習時において各電極に流れる電流値の推移。学習が進むにつれて、「果物」ニューロン電極を電圧刺激した時に、その色に対応する電極へより多くの電流が流れるようになることが確認された(出所:阪大)

さらに、構築された3次元ネットワークへ電圧パルスを印加することで、脳内で見られる側抑制に対応する抵抗変化も観測され、ニューロンのスパイク発火活動に基づく生理学的な情報処理の実現が期待されるとした。

研究チームは同研究結果から今後、新生児の脳のごとく溶液中で一から3次元的なネットワークを構築し、その後学習を通じてシナプス結合強度を自発的に変化させるような「脳型ウェットウェア」の実現および、3次元回路集積やブレインマシンインタフェースにおける配線技術としての応用に期待できるとしている。