三菱UFJ銀行の市場部門は行員によるデータサイエンスチームを構成し、AIと機械学習(ML)を活用した内製開発基盤を構築した結果、業務の大幅な効率化を実現した。その内容と成果について、三菱UFJ銀行 市場企画部 市場エンジニアリング室 堀金哲雄氏が4月のAWS Summit Tokyoで講演した。

堀金氏は、AIと機械学習(ML)を活用した業務の高度化を担うデータサイエンティストチームのリーダーを務めている。以下、同氏の講演のポイントを紹介しよう。

  • AWS Summit Tokyoで講演する三菱UFJ銀行 市場企画部 市場エンジニアリング室 堀金哲雄氏

    AWS Summit Tokyoで講演する三菱UFJ銀行 市場企画部 市場エンジニアリング室 堀金哲雄氏

三菱UFJ銀行の市場部門とは

三菱UFJ銀行の市場部門は、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガンスタンレー証券、MUSインターナショナルと共に、MUFGフィランシャルグループの市場事業本部を構成している。事業本部の事業規模は、2021年度基準で営業利益約2,000億円、従業員2,300人、海外拠点は50カ国だという。

主な業務種別としては、機関投資家や事業法人向けに金利、為替、株などの金融商品を提供するセールス&トレーディング業務、バランスシートのコントロールや日々の資金繰り、マーケット操作を司るトレジャリーの2つがある。いずれの業務においても数千万の個人顧客、数十万の法人顧客の取引情報やマーケット情報を分析することが、事業を行う上で重要だという。

そのため市場部門では、2021年からデータサイエンスチーム(イノベーションライン)を立ち上げている。

データサイエンスチームの目的

同チームでは、データの収集、集約を効率化するため、BPR(Business Process Re-engineering)やRPA(Robotic Process Automation)を活用し、決済や顧客とのチャンネル、業務の内部プロセスを電子化してデータレイクに集約。集まった情報をAIや機械学習(ML)を活用して業務の自動化や高度化を目指している。

堀金氏は、AIとMLを活用したデータの利活用はデータの蓄積、AIとMLを活用したデータをもとにしたビジネスの分析、分析結果を活用した業務の高度化、業務拡大の4つのサイクルを早く確実に回すことが理想だと語った。このサイクルが回っていくことで、データ分析業務、事業がそれぞれ進化し、データ利活用が加速されると考えているという。

しかし現実には、データの蓄積ではすべての業務で使っている情報が入っているわけではなく、手元にデータが残っているケースもあり、また、データレイクへのアクセス制限が厳しく使いづらい、データの定義が整っていないためほしいデータがなかなか見つからないといった課題があるという。

さらに分析ステップでは、ROIが明確にならないと業務を外部に依頼できない、試行錯誤の期間が限られてしまうという課題があった。加えて、分析が終わっても業務担当者の納得感が得られなければ実務で使われない、一旦実務に反映しても分析の成果が下がり、次の改善につながる前に分析結果の活用が止まるといった問題があると同氏は指摘した。

そこで、三菱UFJ銀行の市場部門では、こうした課題に対応するため、データサイエンスチームが使用する内製開発基盤を構築した。この構築で重要だったのは価値観、文化だという。

組織したデータサイエンスチームとは?

具体的には、データを活用する現場の近くにおいて、より早く、現場、経営双方に納得感のあるソリューション、業務にインパクトを与える傑出したソリューションを提供することだという。

市場部門のデータサイエンスチームはこの4つの価値観を重視し、「現場の近くに」という点では、ユーザーとの関わりをデータサイエンティストが直接行う体制にし、「より早く」では、課題定義からPoC、開発・運用までの一気通貫の開発体制、責任体制とした。

「現場、経営双方に納得感のあるソリューション」に対しては、メンバー構成は行員のみで組成し、ビジネスラインと共に目標を共有することで、互いに素晴らしいと言い合える体制を目指したとのことだ。

  • 内製開発基盤で重視したポイント

    内製開発基盤で重視したポイント(出典:三菱UFJ銀行)

チームメンバーを集めるにあたっては、数学に詳しかった人、ライブラリ開発経験があり、ソフトウェアエンジニアリングスキルがある人を登用。中途採用でも、リーダー自らダイレクトリクルートすることで、チームの目指しているところに共感してもらえる人に来てもらった。