さらにコウイカは、すぐに望んだ色に変化できるのではなく、微調整するように幾度も体色模様を変化させたり、間を置いたりするプロセスを経て、満足のいく体色模様を選んでいることも確認された。このプロセスは、たとえ同じ背景を見せた2つの試行の間でも決して同じではなく、コウイカの行動の複雑さが浮き彫りにされたとしている。

加えて、コウイカは目標の体色模様を通り越し、一時停止した後で、やっと狙った模様に到達することがしばしばあるとする。このことから、コウイカは単に背景を読み取って即座に体色模様を変化させているのではなく、継続的にフィードバックを受け取りながら最も背景にうまく擬態できる模様に微調整していることが考えられるという。ただし、具体的にどのようにしてそのフィードバックを受け取っているのか、たとえば視覚を用いて認識しているのか、もしくは各色素胞にある筋肉の収縮度合いを感じ取っているのかは、まだ明らかにできていないとする。

また、これらの研究に加え今回は、コウイカが危険を感じた時に全体が白くなる「ブランチング」という反応についての調査も行われた。擬態の体色模様とは異なり、ブランチングでは瞬発的かつ直接的に白い色に変化するため、擬態とは別の制御システムが働いていることが示唆されるという。

このブランチング現象を高解像度で撮影したところ、ブランチングする直前に描いていた擬態模様が一部残った状態のまま、その上にブランチングの色が重なるように体色を変化させていることが確かめられた。その後も観察を続けたところ、コウイカはゆっくりとブランチングする直前の体色模様に戻っていることも観察されたことから、何らかの仕組みでブランチング前の体色を保存していることが示唆されるとししている。

これらの結果から、ブランチングは脳からの擬態信号を一時的に上書きするようなもので、擬態する時とは別の神経回路で制御されている可能性があるという。研究チームは今後、コウイカの脳から神経活動を捉えて、体色模様形成能力をどのように制御しているかをより正確に解明していくとする。

今回の研究により、コウイカの擬態行動は想像以上に複雑で柔軟性があることが突き止められた。なお研究チームは、これまでの研究はアプローチが十分に精密かつ定量的ではなく、確認することが単に困難なだけだったということもわかったとしている。