沖縄科学技術大学院大学(OIST)は6月29日、体色模様を変化させる「コウイカ」の擬態が、これまで考えられていたよりも遥かに複雑なプロセスで行われていることを発見したと発表した。
同成果は、OIST 計算行動神経科学ユニットのサム・ライター准教授に加え、独・マックス・プランク脳科学研究所の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
コウイカは、皮膚に「色素胞」という小さな色素細胞を数百万個も有し、それらを緻密に制御することで、鮮やかな体色模様を作り出す。1つ1つの色素胞の周りには筋肉があり、脳の神経細胞からの信号によってそれらの筋肉が収縮すると色素胞が拡大し、筋肉が弛緩すると色素胞が隠れるという仕組みを備える。このような動作を組み合わせることで、色素胞がスクリーンの画素のような働きをし、全身の体色模様を作り出すのである。
これまでの研究では、コウイカの体色模様を描く要素は限られており、その中から周囲の環境に最も合うものを選んで体色模様を作っていると考えられていたとする。そこで研究チームは今回、モンゴウイカとして知られる「ヨーロッパコウイカ」(Sepia officinalis)の皮膚を超高解像度カメラで詳細に観察し、分析したとする。
そして、モンゴウイカがさまざまな背景に反応して体色模様を変化させている最中に、数万個~数十万個の色素胞が弛緩・収縮している様子をリアルタイムで撮影することに成功したとのこと。撮影された約20万枚の画像データをOISTが運用するスーパーコンピュータで処理し、ニューラルネットワークを用いて分析を行ったという。
ニューラルネットワークは、模様の緻密さ、明るさ、構造、形状、コントラストに加え、複雑な特徴など、さまざまな要素を総合的に捉えることが可能だ。今回の分析では、それぞれの模様を「体色模様空間」と命名された高次元空間に投射し、多様な体色模様の全体像を記述したとする。
研究チームは同様に、コウイカが見ている周りの背景画像も分析し、体色模様が周囲にどれほど溶け込んでいるかも調査。これらの結果をまとめると、コウイカは繊細かつ柔軟に体色を制御し、自然の背景にも人工的な背景にも溶け込めるよう、体色模様を高度に変化させていることが判明した。また、同じコウイカに同じ背景を数回見せると、人間の目には見分けがつかないほど微妙に擬態模様が異なっていることも明らかにされた。