大阪大学(阪大)と鳥取大学の両者は6月22日、がん抗原とアジュバント(免疫賦活化剤)を搭載した「エンベロープウイルスレプリカ」(以下「EVR」)を調製し、有望ながんワクチン候補となることを確認したと共同で発表した。
同成果は、阪大大学院 理学研究科の伊藤啓太大学院生、同・真鍋良幸助教、同・深瀬浩一教授、鳥取大大学院 工学研究科の古川寛人大学院生、同・松浦和則教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
がんワクチン療法は、がん細胞が特異的に持つがん抗原を目印として利用し、それに対する免疫反応を誘起することで治療する手法だ。手術が不可能ながんや転移したがんでも治療でき、しかも再発を抑える理想的な治療法になり得るが、その開発は困難で、標準的な治療法として確立されるにはまだ至っていない。
がんワクチンのがん抗原として、化学合成が可能な低分子ペプチドを利用すれば、安価で安全なワクチンの創製につながる。しかし、抗原が抗体産生を誘導する性質である免疫原性は低く、通常は担体(ほかの物質を固定する土台となる物質)への固定化が必要となるため、効果的な担体マテリアルの開発が求められていた。
そうした中で研究チームは、トマトブッシースタントウイルスの内部骨格形成に関与する「βアニュラスペプチド(24アミノ酸)」を化学合成し、これが自発的に集合してウイルス様の構造体を形成することを先行研究で見出していたとのこと。さらに、同構造体を脂質二重膜で覆うことで、膜で覆われたウイルス様の粒子であるEVRを調製できることも明らかにしていた。
EVRの特徴は、タンパク質やペプチド、核酸などのさまざまな成分を自在に搭載できる点だ。さらにはエンベロープ膜の脂質成分の構造を変えることで、粒子表面の電荷や安定性なども調節可能である。つまり、サイズや安定性、電荷などの物理的特性を自在に制御可能で、さまざまな分子を搭載可能な自由度の高いナノ材料といえるとする。