日本マイクロソフトは6月22日、「中堅中小企業の変革をAIで支援」と題したプレス向け説明会をオンラインで開催した。
同社はこれまで、中堅中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援のためにハイブリッドワークの推進、ビジネスプロセスのデジタル化、スタートアップとの連携、サイバー攻撃への対応力強化に取り組んできた。説明会では中堅中小企業のAI活用をどのように進めていくかについて、同社の方針が示された。
クラウドシフト、データ活用、業務のデジタル化が重要
Microsoft製品へのCopilot(コーパイロット)機能の搭載と、ISV(独立系ソフトウェアベンダ)によるAzure OpenAI Service(以下、Azure OpenAI)を統合したSaaS(Software as a Service)の提供の2軸で、マイクロソフトは中堅中小企業に対してAIを提供していく方針だ。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 コーポレートソリューション事業本部長 兼 デジタルセールス事業本部長の三上智子氏は、「今まで使えきれなかったような機能をCopilotが提案することで、企業の生産性が向上するだろう。Azure OpenAIはエンタープライズグレードのセキュリティ機能を実装しているため、中堅中小企業も安心してAI機能を利用できる」と説明した。
マイクロソフトは従来からAIを活用した機能を提供してきた。昨今、生成AI(ジェネレーティブAI)に注目が集まり、日本におけるChatGPTの利用率や、BingのAI機能の活用率が高い水準にあることなどから、「あらためて、AIが日本の中堅中小企業の生産性向上の起爆剤になる可能性を秘めていると当社は考える」と三上氏は語った。
中堅中小企業がAIを活用する上で重要になるのがクラウドシフト、データ活用の仕組みの構築、ビジネスプロセスのデジタル化だという。
「ITインフラをクラウドに変え、クラウドベースのサービスを利用することで働き方が変わり、自社の業務に関するデータが蓄積される。そうした、AIを活用するためのベースが整うことでAIを利用しやすくなるだろう。例えば、Microsoft 365 Copilotを利用した際に、より意味のある返答が返ってくることが考えられる」(三上氏)
LegalOn TechnologiesはAIによる契約書修正機能を提供
Azure OpenAIを統合したSaaSの開発・提供を行うISVやスタートアップは数十社に上るという。説明会では、その中から4社のサービスが紹介された。
電話自動応答サービスを提供するIVRyでは、Azure OpenAIを活用して2023年3月にChatGPTと電話で会話できるサービス「電話GPT」を特別公開した。また、同年6月には人のようにスムーズな電話応対を24時間365日行えるAI電話システムを開発し、試験提供を開始している。
Thinkingsでは、同社が開発した採用管理システム「sonar ATS」に、Azure OpenAIを活用した機能を選考ステップごとに順次搭載していく予定だ。求人票向けの機能としては、企業が求人の募集要件をインプットすると過去の採用データを踏まえて、効果の高いテキストや画像が自動生成されるといった内容を構想している。
wevnalは、接客オートメーションのためのチャットサービス「BOTCHAN」に、消費者の疑問解決精度の向上に社内ドキュメントを活用するためにAzure OpenAIを利用する。
LegalOn Technologiesは2023年5月30日、同社のAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」にAzure OpenAIで提供されるChatGPT APIを活用した「条文修正アシスト」機能のオープンβ版を提供すると発表した。同機能では、企業の法務担当者などが同プラットフォームで自動レビューの結果を基に契約書を修正する際に、元の契約書の内容を一定程度反映した文案を生成できるという。
LegalOn Technologies 執行役員 CTOの深川真一郎氏は、「OpenAIが提供するChatGPTも実用に足るものだったが、契約を扱うという弊社の事業ドメイン上、ネットワークの安定性や複数リージョンでの冗長化が可能であり、オプトアウト申請が受理されればHarmful Content/Abuse Monitoringを目的としたデータの一時保存を回避可能であるといった、信頼性やセキュリティの面からAzure OpenAIを採用した」と説明した。
スタートアップの生成AI活用を支援する新プログラム
マイクロソフトは、中堅中小企業のAI活用を後押しするためには、テクノロジーに知見があり、AIを利用したサービスを提供するスタートアップの支援が重要と考えている。
説明会では、「Generative AI Acceleration Program」というスタートアップ支援の新プログラムを同日より開始することが発表された。同プログラムでは、生成AIを活用したビジネスに取り組むスタートアップに対して、ベンチャーキャピタルによるメンタリングなどを実施する。
同プログラムには、ANOBAKA、サイバーエージェント・キャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、HIRAC FUND、インキュベイトファンド、東京大学エッジキャピタルパートナーズの6社のベンチャーキャピタルが参加する。
また、従来から提供しているスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」の提供も強化するという。同プログラムでは、2026年6月に1000社のプログラム参加を目標としていたが、2000社に目標を上方修正する。
三上氏は、「中堅中小企業がAIを活用しやすくなるように、Microsoft Baseを通じてワークショップやハッカソンを実施するなど、地域に根差したAI活用支援も継続する」と述べた。
2023年6月14日には福島県郡山市にMicrosoft Base Fukushimaが開設された。同年6月下旬には新たに、秋田県横手市と秋田市に新たな拠点の開設を予定している。