米OpenAIが公開したChatGPTは、自然言語(日本語などわれわれが日常的に使う言語)で扱えるとあり、大きな驚きを与えるとともに瞬く間に私たちの日常生活に入り込んだ。TwitterなどのSNS(Social Networking Service)上では、人間が期待する回答を適切に得るためのプロンプト(命令文)に関する知見も共有されている。すでに自身や組織の業務効率化のためにChatGPTを役立てている人も多いだろう。
一方で、ChatGPTに代表される最新の生成AI(Artificial Intelligence:人工知能)技術が抱えるリスクや課題のために、あえてそれらのツールを遠ざける場面も少なくないようだ。中には"AIによって無くなる職業"のように、いたずらに恐怖感をあおるメディアも見られる。
これからのビジネスパーソン、そして事業組織はAIとどのように向き合い、付き合っていくべきなのだろうか。このテーマについて、事業戦略や組織開発を手掛けるEpoChを立ち上げ、その代表取締役社長を務める遠藤亮介氏が語ってくれた。同氏はこれまで、複数の外資系企業で組織開発や戦略人事領域を主導してきた。
聞き手は、ビジネス(事業)サイドの人材からテクノロジーも理解できる「Biz×Tech」人材への成長を促す、テクノロジーブートキャンプ「Tech0(テックゼロ)」を運営する濱田隼斗氏。Tech0では非エンジニア人材が実際にプログラミング言語でコードを書きながら、チームでプロダクトを作り上げるまで伴走して支援する。実際にTech0からリリースされたサービスもあるという。濱田氏はMicrosoftでAIやML(Machine Learning:機械学習)のスペシャリストとしても活動している。
対談のきっかけは2人の共感
濱田氏:遠藤さんには、Tech0のビジネスを進めるためのアドバイザーとして、そして私のリーダーシップを高めるためのエグゼクティブコーチとして支援いただいています。Tech0のどのあたりに共感いただけたのでしょうか。
遠藤氏:私は誰かと一緒に仕事をする際に「誰と?」「何を?」という視点を大事にしています。共通の知人に濱田さんを紹介してもらい、初めてお会いしたときに、Tech0のビジネスの前に濱田さんの「日本を変えていきたい」という思いに共感できました。初対面で2~3時間ほど話してみて、情熱と純粋さを持った人であると感じました。
Tech0は、ビジネスサイドの方がテクノロジーを使える人材になる過程をブートキャンプ方式で支援する取り組みです。濱田さんが持つテクノロジーの知見と、私がこれまで外資系企業で組織開発やHR(人事)に携わってきたノウハウを掛け合わせることで、日本に恩返しができると思っています。「濱田さんと」「日本を変えるための共創を」できると信じて応援しています。
これからの組織に必要なのは社員と組織の「WILL」と「CAN」
濱田氏:私も、遠藤さんの「日本を変えたい」という強い思いに共感しています。遠藤さんが日本に対して強い思いを持つようになったきっかけは何でしょうか。
遠藤氏:私はこれまでずっと国内に暮らしてきましたが、キャリアとしては外資系企業に5社ほど在籍しました。その中であるコンシューマテクノロジー企業にいたときに、全社員の視点が「人がフラストレーションを感じる所」や「人が見逃しやすい所」に向いているのを感じました。そこでは、どんな役割やポジションの人でも顧客の問題解決に目を向けているのが印象的だったんです。
日本の企業では所属している組織やチームを重要視する場面が多いですが、反対に、外資系企業はどのようなプロジェクトに属して働くのかを重要視するカルチャーが強いんです。それぞれの社員が持つ強みを適材適所で発揮して、互いに共感して共創しながらプロジェクトを進めています。ここが日本とグローバルの違いだと思っています。
日本企業に多くみられる従来のピラミッド型の組織は、トップダウンでのマネジメントには適していると思います。ですが、これからの時代の企業は、組織のパーパス(存在意義)と社員一人一人の「WILL(意志)」「CAN(できること)」が共鳴できないと存続が難しいと思います。ピラミッド型の組織では、社員のWILLとCANを発信するのが難しいんです。
私は国内にいながらにして外資系企業で働いてきましたが、それらの企業では社員が自身のWILLとCANをきちんと発信していました。だから、国の違いではなく、組織のカルチャーの違いだと思います。日本のピラミッド型の組織の良さを残しつつ、社員が自分自身のWILLとCANにオーナーシップを持てるようになれば、日本はこれからもっと成長できると思います。
濱田氏:社員がWILLとCANを明言化して表現するための組織作りには、何が必要なのでしょうか。スキルですか?
遠藤氏:もちろん思考するためのスキルや経験は必要なのですが、それ以上に環境や外的要因の方が必要だと思います。私自身が日本で育っていながら社会人生活の大半を外資系企業で過ごしたことで、WILLとCANを表現できるようになりました。だからこそ、特にそう感じます。
私は1 on 1でのコーチングでクライアントと対話する中で、その相手が自分自身のWILLに気付いてようやく初めて明言できるようになるという経験が多いです。WILLやCANを潜在的に持っていたとしても、これまで発信する場が無かったので、そもそも「WILLを発信していいんだ」という認識を持っていなかったのでしょう。
繰り返しになりますが、これからの組織は、組織のパーパスと社員のWILL・CANを掛け合わせることができないと存続できません。従来の日本が持つ組織力の強さを残しながらも、社員がWILLとCANを表せる環境作りが重要になるはずです。
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