ASICデザイン・ファウンドリの中国VeriSiliconは6月8日、都内でメディア向け事業説明会を開催。半導体IPを取り巻く現状や、同社の今後の方向性などの説明を行った。

同社は2001年に創業され、2015年にGPU IPベンダであった米Vivanteを買収。それによりGPUをはじめとして、NPU、DSP、VPU、ISP、ディスプレイプロセッサの6種類のデジタルIPを獲得。現在、それら6つのデジタルIPならびにアナログ/ミクスドシグナル、RFといったアナログ半導体IPのライセンスや、ワンストップ型のカスタムシリコン・サービス「Silicon Platform as a Service(SiPaaS)」などを提供してきた。

  • VeriSiliconのビジネスモデル

    VeriSiliconのビジネスモデル。単に半導体IPのライセンスのみならず、自社で顧客ニーズに沿ったSoCの設計からパッケージまで担うターンキーソリューションの提供も行っている (資料提供:VeriSilicon、以下すべてのスライドが同様)

2020年には上海証券取引所の科学技術企業に焦点を当てた「科創板」に上場。2022年の業績は前年比20%増の3億9800万ドルと急成長を遂げている。

現在、中国と北米に研究開発拠点を有しており、主に中国側でアナログIP、北米側でデジタルIPの開発を担当。R&Dエンジニアは総勢1168名在籍しており、中国拠点に95%、北米拠点に5%ほどがそれぞれ配置され、研究開発を推進しているという。

  • 研究開発に注力

    研究開発に注力しており、大量の人的リソースをそこに投入している。また、携わるエンジニアの質も修士以上を中心に採用を進めており、離職率も業界平均よりも低く、安定した研究開発環境が整えられているという

IPからターンキーまで幅広い技術を提供

現在同社のビジネスは3本柱で構成されている。1つ目は従来型のIPビジネス。IPを顧客にライセンスし、顧客が製品を出荷するごとにロイヤリティをもらうというもの。2つ目が顧客のASICをVeriSiliconが代わってデザインするデザインサービス、そして3つ目が設計から製造手配、パッケージング・テストまで行い、顧客に届けるターンキーソリューションとなっており、中でもターンキーソリューションの売り上げの伸びが近年高まっている。こうした業績の伸びについて同社の創業者・会長・プレジデント兼CEOであるWayne Dai氏は、「VeriSiliconのサービスを活用することで、顧客はR&Dコストを抑制することができ、利益の確保がしやすくなる。例えば家を建てる際に、建物の完成イメージは顧客がするが、そこに設置される家具や設備をVeriSiliconが用意し、さらにそれを顧客の要望を受けて作りこむことまで行っているのが我々のビジネスモデル」と自社の在り方を説明する。

  • Wei-Jin Dai氏とWayne Dai氏

    左が同社Executive Vice PresidentでVivanteのPresident & CEOであったWei-Jin Dai氏、右が同社CEOのWayne Dai氏。両氏は兄弟の間柄で、Marvell TechnologyのCofounderで元Presidentなどを務めたWeili Dai氏とも兄妹の間柄

一方のIPビジネスについても年々、そのライセンス数を伸ばしている。例えばGPUについては20年近く提供してきたノウハウを有しており、NXP Semiconductorsとは15年以上の付き合いで、i.MX 6シリーズ、i.MX 7シリーズ、i.MX 8シリーズにGPUを提供してきたほか、i.MX 8M PlusにはNPU(Vivante VIP8000)も搭載されるなど、さまざまなIPでの協力が進められてきたという。

NPUはNXP以外にもすでに60社以上が採用し、110種類以上のSoCに搭載されてきたとのことで、その適用アプリの範囲もスマートホームやAIoTといったコンシューマ用途から、自動運転やデータセンター、ロボティクスといった産業用途まで幅広く、日本のカメラメーカーなどでは高画質化を図るために同社のAI処理を活用しているという。

また、Blue Ocean Smart Systemに至っては、VeriSiliconが提供するチップレット技術をGPUとNPUに組み合わせることで、高性能AIチップを開発したことを発表している。これは、VeriSiliconのGPGPU IP「CC8400」やNPU IP「VIP9400」、VPU IP「VC8000D」などを組み合わせた4つのチップを1チップ化したもので、用途に応じてGPU+VPU、NPU+VPUといった構成を選択して使い分けることができるものになっているという。

  • Blue Oceanの高性能AIチップ

    VeriSiliconがGPUやNPU IPに加え、チップレット技術も活用してターンキーソリューションとして手掛けたBlue Oceanの高性能AIチップ。データセンターや自動運転など、用途に応じて異なるチップ構成で提供が可能だという

  • UCIeにも参画

    チップレットの相互接続に関するオープン規格策定団体「Universal Chiplet Interconnect Express(UCIe)」にも設立直後の2022年4月に参画

幅広いファウンドリプロセスに対応

同社はIPベンダであり、基本的には自社で半導体デバイスの設計・製造は行わないため、IPのライセンスを受けたカスタマが設計した半導体デバイスの製造はファウンドリが担うことになる。基本的には大手ファウンドリであれば、いずれもプロセスに寄るが対応可能な状態となっているほか、通常のCMOSプロセスなどに加え、低消費電力化が期待できるFD-DOIプロセスにも対応している。

中でも28/22nm FD-SOIプロセスは得意だと同社では説明しており、例えばGlobalFoundries(GF)の22nm FD-SOI(22FX)プロセスを用いた場合、28nm CMOSプロセスで製造した場合と比べて55%の低消費電力化を実現したSoCをターンキーソリューションとして設計からパッケージングまで担当。単3電池2本で動作可能な監視カメラに搭載され、すでに6000万個が出荷された実績もあるという。

Wayne Dai氏は「半導体技術はさらに進化する必要がある」ことを強調する。中でもそうした技術進歩のけん引役として期待されるのがAR(MR)グラスであり、その究極の目標は、普通の大きさ・重さのメガネにさりげなく高性能AIの機能が搭載され、埋め込まれたカメラから目の前の状況や人物を瞬時に判断し、目の前に表示することだとする。「そうしたことが実現できることに寄与できるIPの提供を目指す。単に技術を売るのではなく、顧客に対する付加価値を提供していく。それに価値を感じてもらうことで、エコシステムの中にVeriSiliconが入ることとなり、我々の技術を活用することで顧客がより大きなエコシステムを構築できるようになる」と同氏は、自社のビジネスの在り方を説明。顧客のビジネスの成長を支援することが自社の使命であり、それは日本市場でも同様であり、デジタル化に対するニーズが高まる昨今、そうした時に必要とされる存在になりたいとしている。