東京工業大学(東工大)は6月6日、マウスの小腸組織とアクチュエータを組み合わせたデバイスを開発し、小腸壁が変形する際に発生する流体の流れの様子を動画で撮影したと発表した。
同成果は、東工大 工学院 機械系の栗生識大学院生(現・東京大学 生産技術研究所 助教)、同・石田忠准教授、同・大学 生命理工学院 生命理工学系の山本直之教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行するマイクロおよびナノスケールのデバイスとアプリケーションに関する全般を扱う学術誌「Lab on a Chip」に掲載された。
ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が、健康を増進することはよく知られている。しかし、それらが口から摂取された後、強酸の胃を通り抜けて無事に小腸にまで辿り着き、その表面の絨毛にある取り込み細胞まで、どのような経路およびメカニズムで流れ着くのかは未だ解明されていないという。
小腸の免疫活性化は、善玉菌が小腸に取り込まれることで開始される。しかし、この取り込みを行う細胞の数は小腸の上皮細胞中でわずか1000万分の1の割合でしかない。さらに小腸内部には絨毛が無数に林立し、消化された食物や水分、粘膜が混ざった上に、膨大な数の常在腸内微生物が生態系を形成している。このような極めて複雑な環境下で、善玉菌が取り込み細胞に辿り着くまでの流れに関する知見を集めることが、小腸免疫研究に重要とする。
そうした中、研究チームはこれまで、マウスの小腸組織をトンネル状の流路に加工し、小腸内部を顕微鏡上で観察可能なデバイスを開発。同デバイスを用いて、腸内微生物と同等の大きさを持つ蛍光性マイクロビーズを流した際の絨毛近傍における流れの観察を成し遂げた。
しかしこの際、小腸組織の自己融解を防ぐために化学固定されており、同組織が動かない状態、つまり生体内では起こりえない状況でしか流れを観察できないことが課題だったとする。そこで今回の研究では、化学固定した小腸に、空気圧で膨らむ風船のようなバルーンを有する空気アクチュエータを配置して改良を試みたという。
同デバイスでは、バルーンを膨らませる、あるいは萎ませる動きを順番に小腸に与えることで、小腸組織の蠕動(ぜんどう)運動のような腸管運動を模擬することに成功。複数のアクチュエータが駆動する時に小腸組織を変形することで、小腸内部の液体に流れを発生させることが実現された。
同デバイスは、底面から小腸内部を顕微鏡で観察することが可能だ。流路内部は絨毛に覆われており、液体導入口付近には腸内微生物を取り込む組織として有名なパイエル板、液体排出口付近には天井側に大きく窪んだ構造など、人工的には作製できない不均一な構造が確認されている。また、小腸組織に実装したアクチュエータは小腸管を塞ぐ程度まで膨らみ、7時間にわたり精度・再現性良く動作することが確認されたとする。