DataRobotは5月18日、AIプラットフォームの最新版「DataRobot AI Platform 9.0」のローンチイベントを開催した。「ビジョンからバリューへ~AIでさらなるインパクトを~」と題された同イベントでは、デモを交えた新機能の紹介などが実施されたほか、DataRobot AI Platformを活用するユーザー企業らが、ビジネステーマの発掘からAIによる価値創出に至るまでの経緯やこれからのAI活用について語った。

本稿では、イーデザイン損害保険(以下、イーデザイン損保) ビジネスアナリティクス部兼CX推進部 次長 木村允昶氏、サントリーシステムテクノロジー グローバルシステム部 先端技術グループ 坂本健后氏が登壇し、DataRobot バイスプレジデント、ジャパンAIエキスパートの小川幹雄氏が司会を務めたパネルディスカッション「AIの組織展開における課題と道筋~ビジネスでバリューを生み出すAI活用とは~」の模様をレポートする。

  • 小川幹雄氏、木村允昶氏、坂本健后氏

    (左から)DataRobot 小川幹雄氏、イーデザイン損害保険 木村允昶氏、サントリーシステムテクノロジー 坂本健后氏

「AI活用で成果の出るテーマ」を発掘するには?

今や、多くの企業が「ビジネスにAIを活用したい」と考えているはずだ。だが、自社のビジネスのどこにAIを活用するべきか、というところで二の足を踏むケースは少なくない。小川氏からはまず、「AIによって成果や価値を創出したビジネステーマをどのように発掘したか」が問いかけられた。

坂本氏曰く、同氏がDataRobotに関わり始めた2018年頃、まだAIには「どうやって業務に適用していくのか」「どうやって精度検証していくのか」という道しるべがなかった。そのため最初は、DataRobot社や特定の販売代理店に指南を受けた上で、自社向けにカスタマイズしてから、事業部門に対して「AIでこんなことができます」と宣伝したのだという。結果、いくつか反応が良かったものの中からテーマを選んでいったという流れだ。

AIに関するサントリーの取り組みとしてよく知られているものの1つが、「需要予測AI」だ。「需要予測では、予測値をそのまま出荷量や生産量に使うことはできない」と坂本氏は説明する。

「我々が徹底的に『なぜそういう予測値になったのか』を分析して、事業部門に説明し、納得してもらった上で、どう使うか考えていく必要があります」(坂本氏)

坂本氏らは事業部門とFace to Faceで議論し、現場が使えるものになるまで落とし込んでいった。結果、事業部門とシステム部門とで合意が生まれ、活用に至ったのだという。

一方、イーデザイン損保では「いろいろなパターンがある」と木村氏は語る。

例えば、顧客と事故担当者をマッチングするサービス「私のタントウシャ」は、外部とのワークショップで創出されたビジネステーマだ。最初は、「担当者が快適に業務を進めるにはどうしたら良いか」という従業員満足度の目線でAIの活用方法を模索していたが、ワークショップの講師から「CXの観点で考えたほうがよいのではないか」とアドバイスを受け、発想を変えたのだという。

顧客によっては、ゆっくりと丁寧な説明を求める人もいれば、テンポ良く手続きを進めることを好む人もいる。そこでAIを活用して顧客と事故担当者の相性度をスコア化し、マッチングしていく仕組みを構築した。相性が良い組み合わせでやり取りすることで、双方の満足度を高めることが狙いだ。

また、別の事例としては、提携修理工場への誘導率を向上する施策への活用が挙げられた。これは木村氏の部内でブレストし、AIを活用すればうまく提携修理工場をお薦めできるのではないかと考え出されたものだ。

「こちらに関しては、坂本さんと同じく、現場の方と密にコミュニケーションをとりながら進めていきました」(木村氏)

両社が価値創出できたワケ

AIを活用し、成果を上げることに成功している両社だが、価値を創出する上で何がポイントとなったのか。

木村氏は、「(イーデザイン損保では)部署によってもともと数字やデータに慣れているところもあれば、そうでないところもある」と説明した上で、「逆に言うと、それは可能性がたくさんあるということ」だと語る。

「そういう視点で見ていくと、『こういうことができるんじゃないか』みたいな話がいろいろ出てきて、具現化したケースはありますね」(木村氏)

「『AIは所詮ツールでしかない』と認識したかどうかが大きい」と振り返るのは坂本氏だ。

例えば、需要予測AIは未来を100%確実に当てるものではない。これを理解した上で、現場の人間がそれをどう意思決定に組み込んでいくのかを徹底的に議論する必要があるのだという。

「それには、AIをつくった我々側からもアプローチしなければいけないし、実際に業務をしている現場側からもアプローチが必要です。我々も業務のことを知らなければいけないし、現場にもAIのことをわかってもらわなければいけません」(坂本氏)

データサイエンティストが生き残るために必要なスキル

今まさにAIのビジネス活用を進める両名は、データサイエンスの将来をどう見ているのか。――小川氏からの問いに、坂本氏はまず「個人的には、データサイエンティストはいなくなる可能性すらあると思っている」と見解を示した。

「ChatGPTのような生成AIに代表されるように、見かけ上はコンピュータが自律的に何かを分析してしまう世界になり始めています。これは会社としてではなく個人の意見ですが、指数関数的にテクノロジーが進化しているので、データサイエンティストの未来は読めないなというのが正直なところです」(坂本氏)

一方で、データサイエンスについては「多くのことが計算的にわかってしまう時代が来るのではないか」と予測する。

「そこに、DataRobotさんのような機械学習ベンダーが、技術的にどうアプローチしていくのかには興味があります。我々エンジニアはそこを追いかけておく必要があって、Pythonでコードを書くような時代はいずれ終わるんだろうなと。だから今回、ローンチイベントで発表されたような(生成AIとの連携)機能は、注目し続けなければいけないのではないかと思ってます」(坂本氏)

これに対し、「坂本さんと同じことを考えています」と木村氏も同意する。

「我々の部署は、データドリブンを目的にしているのですが、その一つとしてサイエンスがあると思っています。データを可視化して分析/活用していく中で、今はまず全社でそれらを当たり前にできるようにするところからやっているんですが、今回、(その流れで)自然体として、サイエンスもできるようになるのではないかと思いました」(木村氏)

つまり、サイエンスがデータリテラシーの一つになっていくのではないか、というのだ。「意思決定の判断ができる現場の担当者が、当たり前のようにデータサイエンスを使いこなすようになれば、より使われるようになるのではないか」と木村氏は話す。

そんな時代が到来すれば、データサイエンティストの定義も変わる可能性があるだろう。データの可視化も機械学習もできて、それらを業務に組み込むこともできる守備範囲の広さがあって初めてデータサイエンティストを名乗れるようになるとすれば、これから目指す人にはかなりのハードルだ。未知の世界の話ではあるが、そうした不確定な未来でも「確実にデータサイエンティストに求められると思うことは1つだけある」(坂本氏)という。

「ChatGPTを含め、AIが出した分析結果が本当かどうかを見抜く力は必要です」(坂本氏)

小川氏は、「確かに、(生成AIは)マジョリティーが間違えていることをそのまま出している可能性がある」とした上で、「守備範囲が広く、かつ(出力結果の)真偽を見極められる人がデータサイエンティストとして生き残るのだろう」とまとめた。