パーソルは5月26日、「企業による不正・不祥事が従業員と組織に与える影響」と題して、メディア向けの勉強会を開催した。
今回の勉強会では、不正・不祥事発生のリスクを高める要因や企業が対策を講じるにあたり留意すべきポイントについて、コンプライアンス対策実務者の視点やデータを交えて説明が行われた。
勉強会には、パーソル総合研究所 上級主任研究員の小林祐児氏とパーソルホールディングス リスク・コンプライアンス室の沼田優子氏が登壇した。本稿では、その一部始終を紹介する。
会社員の18%が「不正は仕事上の必要悪である」と回答
最初に登壇した小林氏は、データを交えながら「企業の不正・不祥事とコンプライアンス対策」について説明した。
小林氏はまず、企業内の不祥事・不正の定義を以下のように説明した。
「不祥事や不正は、企業の従業員が行う、法令・規則に違反する、または社会的な通念・常識に反するような行為・事案として定義されています。」(小林氏)
このような意味合いを持つ「不正」だが、パーソル総合研究所の調査では、全就業者の13.5%が、不正に関与したことがあるか、見聞きしたことがあると回答しているという結果が出ているという。
不正の内容の内訳としては、労務管理上の問題のジャンルが最も多く、特に「サービス残業が日常的に発生している」「基準を超えた長時間労働が長い間、継続している」など、働く時間のルールを破っていることを黙認している環境にいることが多いことが分かっている。
しかし、それ以外にも「法令や社内で求められる資格を得ないまま業務を行っている」といった不正を含む「手続き違反」、「個人情報や機密情報が流出」に代表される「不適切表現・流出」といった不正に関しても見聞きしたという意見も多く寄せられており、不正の内容も多岐にわたっているそうだ。
このようにさまざまな内容を含む不正だが、意外なことに「肯定派」だという人も少なからず存在しているという。
「同調査では、少数ではありますが、『不正を肯定する』という旨の回答も寄せられています。具体的には、『自分が多少の不正を行っても、ある程度は許される気がする』という質問であてはまるという回答をした人は14%存在しました。また、『他の人が多少の不正を行っていても甘く見るのが賢明だ』『不正は、仕事上の必要悪である』という内容の質問に対しては、いずれも18%以上の方が『あてはまる』と回答しています。また組織内の不正黙認度を見ても『(自分の勤めている)会社は不正・不祥事を隠そうとすると思う』という人が過半数を超えています」(小林氏)
小林氏がデータをもとに挙げた個人の不正許容度と組織の不正黙認度は、ともに不正発生を後押しすることが分かっており、不正発生の大きな要因の一端となっているという。
そんな不正を発生させないためには、不正発生要因を低減させることがまず重要だ。
「目標の透明性や従業員主体の異動、会社都合の異動・転勤の少なさ、人材の多様度(ダイバーシティ)の度合いが高いほど不正発生要因にマイナスの影響を与えるということが調査から分かっています。主な不正の発生原因である『属人思考』『不明確な目標設定』『成果主義・競争的風土』をなくすことで、不正を起こしにくい環境作りを行うことが必要です」(小林氏)
そのほか、小林氏は、不正を防止する対策として、コンプライアンス対策の「こなし」意識を防ぐことや「情緒的共感」を呼ぶコンプライアンス研修を行うことなどを挙げた。
パーソルのリスクマネジメント体制とコンプライアンス活動
続いて登壇した沼田氏は、「不祥事防止のためのコンプライアンスの取り組み」として、同社のリスクマネジメント体制とコンプライアンス活動を紹介した。
「初めに、『リスクマネジメント』と『コンプライアンス』の違いについて動物園のトラの檻を例として考えたいと思います。リスクマネジメントは、どこに虎が逃げる場所があるかを考え、鍵を強化したり、柵の幅を狭めたりするなど、リスク評価・予防をしてコントロールする仕組みのこと指します。一方で、コンプライアンスとは、虎を正しい行動に導くことを目的に、自身の正しい行動を認識させたり、他の虎が外に出ようとしたときに報告するよう啓発したりすることで、健全な組織風土をつくるための活動を指します」(沼田氏)
では、まず「どこに虎が逃げる場所があるか?」を考えるリスクマネジメントについて紹介しよう。
パーソルには「リスクマネジメント委員会」というパーソルホールディングス のHMC(HeadquartersManagement Committee)の機能補完・強化を行う グループ横断組織が設置されている。この組織は2020年4月に設置されたもので、委員には、CEOをはじめとした経営層、各SBU/FU長および各内部統制推進責任者が出席しており、グループ全体のリスクマネジメント全般や重要性の高いリスクについての審議や、モニタリングを行っている。
続いて「虎を正しい行動に導く」コンプライアンスだが、コンプライアンスの体制整備や施策については、一般的なラインナップで行われているという。しかし、特徴として挙げられるのは「感情に訴えるコンプライアンス推進活動」を行っているという点だ。
コンプライアンスが他律的で面白くないものであれば、行動したいという意思決定が阻害され、行動につながらないということが、世の中で不祥事が減らない理由なのではないかと考え、コンプライアンスを「正しいから楽しい」に変えていく取り組みを行っているという。
具体的には、教育において、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」とコンプライアンスを融合し、グループビジョンを実現するためにコンプライアンスが不可欠であることを伝えている。これにより、コンプライアンス自体を目的化しないようにしたり、コンプライアンスを実践した先にある、明るいイメージ(未来)を伝え、ネガティブ事例などを掲載した場合も必ず明るい内容につなげたりなど、コンプライアンスを行動論と捉え、感情に訴える推進活動を通じて内発的動機の醸成を目指しているようだ。
沼田氏は、以下のような言葉で勉強会を締めくくった。
「ここまでさまざまなお話しをしてきましたが、これらが正しいかは正直わかりません。なぜなら、コンプライアンス推進活動は、明確な答えがない領域で答えを探し続ける仕事だと思うからです。どうしたら企業の不祥事をなくせるのか、その答えを探し続けることが、コンプライアンス領域に課せられた使命なのかもしれません」(沼田氏)