文部科学省(文科省)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月24日に開催した宇宙開発利用部会(第75回)の中で、日本の次期基幹ロケット「H3」の試験機2号機の開発方向性について、2023年3月に打ち上げに挑みながらも、第2段エンジンの着火が行われず、衛星の軌道投入に失敗したH3ロケット試験機1号機の結果を踏まえ、その打ち上げ形態の変更などを提案した。
H3はさまざまな軌道へ多種多様な人工衛星の打ち上げを行うことを目的に、その打ち上げ能力を柔軟に変えられるような設計を採用。当初の計画では、H3ロケット試験機1号機では固体ロケット・ブースター(SRB)を2本搭載するH3-22形態を採用するが、同2号機ではSRBを用いず、第1段ロケット・エンジンの装着数をH3-22形態の2基から3基に増やしたH3-30形態を採用することが計画されていた。しかし、H3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗を受け、その原因究明と対策を前提とするが、ロケットの打ち上げ準備には相当の期間を必要とするとの判断から、早期の打ち上げ再開に向け、試験機2号機の各仕様などの見直しを図る必要がでてきたという。
第1段エンジンの開発をバックアッププランに変更
もともとH3ロケット試験機2号機は2023年度中の打ち上げが予定されており、2023年1月には1基目の2号機用のLE-9エンジンの領収燃焼試験が実施されるなど、すでに打ち上げを目指した開発が進められている。そのLE-9エンジンについても、現状は試験機1号機向けに実績のある技術や部品を活用して開発されたタイプ1と、試験機2号機以降向けに新技術などを活用するタイプ2の2段階開発とされていた。タイプ2エンジンについては2023年2月より翼振動計測試験を開始し、4月8日までにすでに5回試験が実施され、前段階の開発で見られていた回転非同期の応答の抑制には成功したものの、一部共振応答が仕様よりも大きいデータが確認されたことから、さらなる改良および試験が必要と判断。そのため、早期の打ち上げ再開を念頭に、当面の打ち上げへの対応には、実績ができたタイプ1をベースにしたタイプ1Aエンジンを準備するというバックアッププランに変更するという。
打ち上げ形態も実績を積んだものへと変更
また、打ち上げ形態も試験機2号機ではH3-30形態を予定していたが、その場合、基幹ロケットとして初めての3基エンジンならびにSRB無しという構成から、1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)やホールドダウンシステム(機体を保持、エンジン3基の立ち上がりを確認した上でリリースする装置)の追加検証が必要であることが課題となるため、試験機1号機と同じ構成のH3-22形態へと変更することで開発期間の短縮を図ることを想定しているとする。
ここでポイントとなるのはロケットの仕様変更でペイロードが問題なく詰めるのかという点。試験機2号機には先進レーダ衛星「ALOS-4」が搭載される予定であるが、打ち上げ能力的にはH3-22形態でも可能であるという。また、宇宙基本計画工程表に記載されている2023年度~2025年の打ち上げミッションで求められるのはH3-22形態もしくはH3-24形態(SRB4本構成)であることから、H3-22形態での実績を重ねたいという部分もあるとする。
ただし、先の試験機1号機に先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」が搭載され、それが喪失された以上、試験機2号機に万が一の場合が生じALOS-4も喪失されるとなると、それに伴う防災関連の政策や関連分野への影響などが懸念されること、またH3-22形態でALOS-4を試験機1号機同様の軌道に向けて打ち上げても問題はないのか、といった疑問などが生じていることから、ALOS-4の代わりに飛翔中のロケットの各種データを取得可能なセンサなどで構成されたロケット性能確認用ペイロードを搭載する案が提案されている。これにより、より多くのデータを得ることができるようになるため、今後の打ち上げ精度向上に向けた知見を得ることができるようになることが期待される。また、打ち上げまでの時間的な問題から、そこまでさまざまなセンサ類の搭載ができるわけではないとの見通しから、空きスペースなどが生じた場合は影響のない範囲でのピギーバック衛星の搭載なども検討していくとしている。
このため現時点での試験機2号機の打ち上げの形態とペイロードの組み合わせ可能性としては以下の4つに分けられることとなり、このうちの4番(H3-22形態にロケット性能確認用ペイロードを搭載)の方向性を前提とした開発が進められることとなりそうである。
- H3-30形態+ALOS-4
- H3-22形態+ALOS-4
- H3-30形態+ロケット性能確認用ペイロード
- H3-22形態+ロケット性能確認用ペイロード
なお、H3-30形態については、試験機2号機で見送られると、今後しばらくはその形態での打ち上げがなくなる見通しであるが、決してプラン自体がなくなるわけではないとしている。特に中型衛星かつ太陽同期軌道というユーザーが比較的多く存在するボリュームゾーンに対してコストメリットを打ち出せる構成であることから、民間活用の側面からも時期は未定ながらも打ち上げを実現させていく必要性があるとの認識が示されている。ただし、現状としてはできる限り早期のH3ロケットの打ち上げ再開に向けて万全を期していくことが最重要ポイントとなっていることから、そこは今後の打ち上げ計画などを含めて検討していく形で一旦は棚上げとしつつ、文科省、JAXAともに試験機1号機で実績を積んだ技術などを活用していくことで、試験機2号機の早期の打ち上げ成功につなげたいとしている。