岩手大学は5月22日、細胞内のミトコンドリアに存在する「ES1タンパク質」が、細胞にとって毒性のある「反応性ジカルボニル化合物」を無毒な化合物へ代謝することを明らかにしたと発表した。

同成果は、岩手大 理工学部 化学・生命理工学科 生命コースの尾﨑拓准教授、同大 大学院理工学研究科の伊藤銀河 博士課程2年、同大農学部の山田美和 教授、同大農学部の山下哲郎 教授、同大 大学院総合科学研究科の和家由依 修士課程2年(研究当時)、同大理工学部の金子武人 准教授、同大理工学部の福田智一 教授、同大理工学部の菅野江里子 准教授、同大理工学部の冨田浩史 教授、弘前大学大学院医学研究科の多田羅洋太 助教、同大大学院医学研究科の伊東健 教授、同大学農学生命科学部の坂元君年 准教授、岩手医科大学医歯薬総合研究所の野崎貴介氏、同 石田欣二氏らの研究チームによるもの。詳細は、生化学・生物物理学・分子生物学・細胞生物学などに関する全般を扱う学術誌「BBA Advances」に掲載された。

細胞は、ブドウ糖(グルコース)を燃料として生命活動に必要なエネルギーを生産しているが、糖は細胞内に存在するタンパク質などの機能分子と結合して、それらを失活させてしまうこともある。この反応による生体への影響は「糖化ストレス」と呼ばれ、糖尿病、パーキンソン病やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患、加齢性疾患、がんなどの原因の1つと考えられている。

糖化ストレスの主な原因となる反応性ジカルボニル化合物は解糖系の副産物として生成され、その高い反応性によりタンパク質などの変性を引き起こすことから、これらの化合物を無毒化する酵素が存在していることが知られているという。

これまでの研究により、主なジカルボニル代謝経路として「グリオキサラーゼ」(GLO)系が確認されており、GLO系の中には、グルタチオン依存的に代謝するGLO1とGLO2、グルタチオン非依存的に代謝するGLO3が存在していること、ならびにGLO系を含む既知のジカルボニル代謝経路は細胞質に存在することまではわかっていたが、細胞内におけるエネルギー生産の場であるミトコンドリア内での、ジカルボニル代謝機構は未解明のままだったという。

そうした中、眼の網膜において、ミトコンドリアにES1タンパク質が存在することを2020年に尾﨑准教授らの研究チームが報告していた。しかし、その時点でES1タンパク質は機能が不明だったことから、今回、その機能の解析を行うことにしたという。

その結果、反応性ジカルボニル化合物の1つである「グリオキサール」を無害な「グリコール酸」へ代謝することが判明したとのことで、これを踏まえ研究チームでは、ES1を標的分子とすることで、糖尿病をはじめとする糖化ストレス関連疾患の発症機構を解明することにより、新たな治療法を開発できる可能性が出てきたと説明している。

そのため今後については研究チームでは、ミトコンドリアにおけるジカルボニル代謝経路の全貌の解明を進めていくことで、糖化ストレス関連疾患の発症機序の解明と治療薬の開発へと展開していきたいとしている。

  • ミトコンドリアにおけるES1を介したジカルボニル代謝機構

    ミトコンドリアにおけるES1を介したジカルボニル代謝機構 (出所:岩手大Webサイト)