東京大学(東大)、アストロバイオロジーセンター(ABC)、科学技術振興機構(JST)の3者は5月18日、宇宙望遠鏡と地上望遠鏡による観測を組み合わせた研究により、コップ座の方向に地球からおよそ90光年先にある赤色矮星「LP 791-18」を公転する、地球サイズかつ潮汐摩擦により活発な火山活動も想定される系外惑星「LP 791-18d」を発見したことを発表した。
同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の成田憲保教授(ABC 客員教授兼任)、同・大学院 総合文化研究科 附属先進科学研究機構の福井暁彦特任助教、東大大学院 理学系研究科の森万由子大学院生(現・東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 特任研究員)、同・川内紀代恵特任研究員(現・立命館大学 理工学部 助教)、同・西海拓特別研究学生(現・総合研究大学院大学 物理科学研究科 大学院生)らを含む70名以上が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
LP 791-18の周囲にはこれまで、NASAのトランジット惑星探索衛星「TESS」による観測から、2つの惑星(LP 791-18bおよびc)が発見されていた。惑星bは地球の約1.2倍の半径で公転周期は約0.94日、惑星cは地球の約2.5倍の半径というスーパーアースで公転周期は約4.99日とされている。
同星系で3番目の惑星となるLP 791-18dのトランジットは、NASAのスピッツァー赤外線宇宙望遠鏡による連続127時間の観測によって発見された。この惑星dは、惑星bとcの間の軌道に位置しており、公転周期は2.75日。また半径はおよそ1.03地球半径と推定され、ほぼ地球と同サイズだという。
惑星dがどのような惑星なのかを調べるため、日本のMuSCATチームを含め、TESSの公式追観測プログラム「TFOP」に参加している多数のチームが、地上望遠鏡を用いて惑星cとdのトランジット観測を実施したという。MuSCATは、成田教授と福井特任助教が開発した、3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジットを観測できる多色同時撮像カメラだという(現在は、NAOJ 岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡など、世界の3つの望遠鏡に取り付けられている)。
系外惑星の質量を推定する方法は、今回の場合は、複数の惑星が確認されていることから、惑星同士の重力の影響により、トランジット時刻が一定の公転周期からずれることが利用された。MuSCATチームをはじめ、多数の地上望遠鏡による観測を繰り返すことで毎回のトランジット時刻を測定した結果、惑星dの質量が地球と同程度、惑星cの質量が地球の9倍程度であることが突き止められたとする。
惑星cから及ぼされる重力は、惑星dの公転軌道をわずかに楕円形に変形させており、この楕円形の軌道を公転する中で、惑星dには恒星からの潮汐力が働き、わずかに変形。この変形が惑星内部の摩擦を生み、惑星を加熱し、惑星表面で活発な火山活動を起こしている可能性があるとする。これは、太陽系で最も活発な火山活動を示す木星の衛星イオの加熱メカニズムと同じだという。
LP 791-18dはハビタブルゾーンの内側境界付近に位置している惑星で、恒星からの潮汐力により自転周期と公転周期が一致する潮汐ロック状態となっており、恒星に常に同じ面を向けていると考えられるという。恒星からの光を受けている惑星の昼側の面は液体の水が存在するには高温すぎる可能性が高いが、火山活動が起こっていれば惑星に大気が存在し、「夜側」の面では大気中で水蒸気が凝集し液体の水が存在している可能性があるとする。
なお、惑星cについては、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による惑星大気の観測が予定されている。加えて、今回発見された惑星dも重要な惑星大気観測のターゲットになり得るものと研究チームは考えているとしている。
惑星の活発な火山活動は、本来なら惑星の地殻内部に閉じ込められているはずの物質を、大気中に送り込む役割を果たしている可能性があるという。そうした物質の中には、生命にとって重要である炭素なども含まれることが考えられるため、惑星dの大気組成を検出できれば、惑星の地殻活動が惑星大気に及ぼす影響を深く調べることが可能になると研究チームでは説明しており、このことは生命の起源の研究につながる可能性があるため、「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」の観点からも重要だとしている。