蓄電池の評価セルをドライルームと同じ環境の乾燥チャンバー内で組み立て、一定の速度で電圧を変化させての電流応答の測定を実施(電圧電流測定)したところ、電流応答がまったく観測されないことを確認。そこで、乾燥チャンバー内で研磨したマグネシウムを使用して、アルゴンで満たしたグローブボックス内で再度、電圧電流測定を行ったところ、マグネシウム金属の溶解析出反応を示す電流応答を観測したという。
これは、これまでの通説を覆す実験結果であり、乾燥した空気下で形成された被膜は電気化学反応を阻害せず、ほかの要因でマグネシウムが失活していることが示唆されたことから、研究チームではマグネシウムの電気化学活性に影響を与える要因調査に向け、乾燥空気の成分である窒素、酸素、アルゴンの各ガスを一定時間導入し、再び電圧電流測定を実施。その結果、酸素ガスを導入した場合にのみ、電気化学活性が失われることを確認したとする。
また、各ガスを導入しながら、マグネシウム金属負極の電位と電解液中の酸素濃度の時間変化を測定したところ、酸素導入によるそれぞれの変化の様子が似ていることも確認。酸化マグネシウムの電極電位は金属マグネシウムよりも高いため、酸素導入に伴うマグネシウム金属負極電位の上昇は、マグネシウムの酸化が進行していることが示唆されたとする。
さらに、電解液は酸素に対して化学的に安定であり、酸素導入後に電解液にアルゴンを吹き込んで酸素を除去しても活性が回復しなかったことから、これらを総合的に考慮した結果、電解液-溶存酸素-マグネシウム金属の三相境界面に不働態被膜が形成され、これによりマグネシウム金属が不活性化するという仮説にたどり着いたという。
同仮説によれば、溶存酸素とマグネシウム金属が接触しなければ、乾燥空気中でもマグネシウムの電気化学反応(溶解析出反応)が起こり、電池負極として機能することになることが考えられたことから、研究チームでは酸素の透過を防ぐ効果があり、マグネシウムよりもイオン化しにくい金属である亜鉛に注目。亜鉛イオンを含む溶液にマグネシウム金属を浸すと、表面に亜鉛が析出し、同時にマグネシウムイオンが溶出するほか、亜鉛はマグネシウムと合金を形成するため、析出した亜鉛はマグネシウム表面に強く結着することが期待されたという。
実際に、さまざまな亜鉛化合物を含む前処理液を網羅的に検討したところ、ジエチル亜鉛のエーテル溶液を使用すると、特に良好な酸素バリア特性が現れ、乾燥空気中でも5時間以上、電気化学的な反応が持続することが確認されたとする。
加えて亜鉛被膜の化学分析から、マグネシウムと亜鉛の境界面は合金化され、電解液との境界面に近づくほど亜鉛の割合が増加し、表面は酸化亜鉛で覆われていることが判明したほか、電圧電流測定後にマグネシウム金属の断面を電子顕微鏡で観察したところ、被膜を介してマグネシウム金属が溶解していることが観察されたことから、研究チームでは、亜鉛被膜が酸素をブロックする能力を持っており、亜鉛被覆したマグネシウム金属負極は、乾燥空気中でも電気化学的な反応が持続することが示されたとする。
実際にマグネシウム金属を今回の研究で開発された人工被膜で覆い、乾燥チャンバーとグローブボックス内の両方でマグネシウム金属蓄電池を作成したところ、同等の充放電特性を示すことが確認され、この結果から既存のリチウムイオン電池の製造システムをマグネシウム金属蓄電池の製造に転用できることが示されたと研究チームでは説明する。
なお、今後について研究チームでは、マグネシウムは多様な金属と合金を形成できるため、今回の研究で扱われなかったほかの金属や合金を用いた研究に取り組む予定としているほか、被膜の特性にはさまざまなアニオンが影響を与える可能性があるため、人工被膜の成分や構造を最適化する研究にも取り組む予定だとしている。