日本電信電話(以下、NTT)は5月12日、2022年度の決算および2023年度の業績予想と、新たな中期経営計画を発表した。2022年度の連結決算は、営業収益が対前年度比8.1%増となる13兆1362億円、営業利益は3.4%増となる1兆8290億円で、過去最高額を更新した。グローバル・ソリューション事業と、エネットにおける電気料収入が増収を後押しした。

2022年度のNTTは過去最高益を更新

2022年度は営業収益、営業利益、当期利益がいずれも過去最高を更新

2022年度の状況をセグメント別に振り返ると、総合ICT事業ではコンシューマ通信事業での値下げなどがありながらも、法人事業とスマートライフ事業の好調がけん引し、前年度比で増収増益となった。一方で、地域通信事業は電気代の高騰や、昨年8月に発生した大規模故障に伴うコスト削減施策の遅延などの影響を受け、前年度比で減収減益となった。

グローバル・ソリューション事業は、NTT Ltd.における高付加価値サービスの展開や構造改革を通じたコスト削減が功を奏し、大幅な増益増益となっている。また、エネットでの燃料価格の高騰を反映した電気料収入の増加もあったとしている。

  • 2022年度は過去最高の増収増益となったという

    2022年度は過去最高の増収増益となったという

2023年度は営業収益が減収も、営業利益と当期利益が増益の見込み

2023年度は、営業収益は対前年度で762億円減を見込んでいる。主に為替の影響とエネットの収入減が影響する見込みだ。一方で、それ以外のセグメントにおいては引き続き増収の計画となる。

セグメント別では、法人事業やスマートライフ事業の成長に加えて、コンシューマ通信事業における中・大容量プランユーザーの拡大による減収幅の縮小を受け増収となる。地域通信事業はコスト効率化施策の影響が出始めるとして、増収へと転じる予想だ。

  • セグメント別のビジネス概況

    セグメント別のビジネス概況

現行の中期財務目標に対しては、順調な推移が見られる。EPS(Earnings Per Share:1株当たりの純利益)は、2022年度目標としていた340円を上回る348円となり、2023年度目標である370円を引き続き目指す方針。

新中期経営戦略「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」

NTTは、2023年度から2027年度の5カ年における新たな中期経営戦略として、「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」を掲げている。

NTT社長の島田明氏は、新中期経営戦略の基本的な考え方として、「NTTは挑戦し続けます。新たな価値創造と地球のサステナビリティのために」を示していた。成長分野の拡大を図るために、今後5年間で従来の50%増となる8兆円の投資を実施する計画だ。既存分野と合わせて12兆円の投資となる。

こうした投資を通じて将来のキャッシュ創出を促し、EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization:税引前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を加えた利益)は2022年度比で20%増となる4兆円を目指すという。

  • NTT 代表取締役 社長 島田明氏

    NTT 代表取締役 社長 島田明氏

NTTは新中期経営戦略を実現するための施策として、「新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ」「お客様体験(CX:Customer Experience)の高度化」「従業員体験(EX:Employee Experience)の高度化」の三本柱を打ち立てた。それぞれ詳細は以下の通りだ。

新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ

2023年3月、NTTはIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)1.0を発表し、いよいよサービス展開を開始した。今後はIOWN構想下の光電融合デバイスを早期事業化するために、新会社「NTTイノベーティブデバイス」を6月に新設する。出資金は300億円だ。また、6G(第6世代移動通信システム)やIOWNを含む研究開発に対し、2023年度に約1000億円の投資を行うとしている。

また、データに基づく新たな価値創造として、スマートワールド領域にも注力する。NTTドコモが保有するパーソナルデータプラットフォームの活用など、パーソナルビジネス領域では今後5年間で1兆円以上の投資を実施するようだ。加えて、AIやロボットを活用した産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)領域に対しては5年間で3兆円以上の投資を行う。データドリブンな社会のインフラとなるデータセンターの拡張においては、1.5兆円以上の投資を行う計画だ。

  • NTTイノベーティブデバイスを新設する

    NTTイノベーティブデバイスを新設する

同社は循環型社会を実現するための投資も強化するという。グリーンエネルギーの活用を進めるために、再生可能エネルギーの発電事業を拡大するとともに、蓄電池などを活用した地産地消型の電力の安定供給を目指す。5年で1兆円の投資を実施する。

事業基盤の強靭化にも積極的な投資を実施する。4月に発生したNTT東西の光サービスにおける通信障害の影響もあるようで、大規模故障やサイバー攻撃、自然災害への対応を強化するために、2025年までに1600億円規模の投資を行うとしている。

  • 事業基盤の強靭化に1600億円を投じる

    事業基盤の強靭化に1600億円を投じる

お客様体験(CX)の高度化

CXの高度化に向けては、研究開発とマーケティングの融合に着手する。持株会社において、研究開発推進機能とマーケティング機能、アライアンス機能を融合して、マーケティング機能を含めた組織として「研究開発マーケティング本部」を新設する予定だ。

同組織では、プロダクトアウト型の研究開発機能の強化に加えて、グローバルでの共創による研究開発からプロダクトの提供を手掛けるほか、さまざまなパートナーとのアライアンスを推進する。

また、CXを重視したサービスを強化するべく、顧客体験ファーストのサービス提供を推進するという。なお、ここでは個人や法人のみならず、自治体や政府機関などのステークホルダーも「お客様」と捉え、マーケットインで顧客満足と事業成長を実現する。カスタマージャーニーに寄り添いながらアジャイルにサービスのアップデートを実施し、常に顧客の期待を超える体験や感動の提供を目指すとしている。

  • CX向上に向けた取り組み

    CX向上に向けた取り組み

従業員体験(EX)の高度化

同社はEXを高度化するために、人的投資を拡大して自律的なキャリア形成の支援を強化する。専門性に基づく18分野での社外資格取得支援および研修メニューの充実や、社員のキャリアデザインをアドバイスするためのコンサルティングの充実などを測るようだ。また、出産や育児、介護などのサポートを含めたキャリア形成を支援する。

さらに、全世界の従業員に対して、家族を含めたサポートプログラムを強化する。例として、従業員が在職中に死亡した場合に、その子女の大学卒業までの教育費の一部をサポートする制度の拡充などを行う。同制度はこれまで国内の在職中の従業員が対象だったが、今後は海外も含めた従業員へと拡大する。その他、女性新任管理者の登用率を毎年30%以上とする目標などを定めている。

  • 従業員のキャリアを支援するための取り組み

    従業員のキャリアを支援するための取り組み