そして、大型高圧発生装置と超高温実験に適した高圧セルを組み合わせ、先行実験研究よりも現実的なマントル組成と考えられるカンラン岩(化学組成(Mg,Fe)2SiO4)組成の試料を、金属鉄と共に溶融させることに成功したとする。また、数十μmサイズの微小領域における酸化鉄の化学結合状態について、大型放射光施設「SPring-8」の分析装置を用いて、実験回収試料のFe2+とFe3+の量を決定することに成功したとしている。
これらの実験結果から、下部マントル条件下ではこれまでの予想以上にFe3+がFe2+の電荷不均化反応により生成されることが示され、深いマグマオーシャンが形成されると、現在の地球よりも酸化的な表層環境が形成されることが判明したとする。
今回の研究結果は、地質記録から示唆されている冥王代の非常に酸化的な上部マントルの記録を定量的に説明することができ、この時代の地球表層は全球的に非常に酸化的だったことが示された。また、当時の地球大気が、CO2やSO2から構成されていた可能性が高いことも併せて示唆されたとする。こうした大気では、生命が利用可能なアミノ酸などの有機分子の生成率はとても低く、原始生命にとっては非常に過酷な環境だったことが想像されるとしている。
一方で、現在の上部マントルのFe3+の量は、今回の研究で予想される冥王代の上部マントルの値よりも一桁程度低いという。そのため、その後に降着したであろう金属鉄に富む小天体によって、上部マントルの酸化状態が還元されたとする新しい仮説が提案された。研究チームは、今後の地質学的な検証により、地球の上部マントルの酸化状態や大気組成の変遷に関する理解が進むことが期待されるとしている。