インターネットイニシアティブ(IIJ)は4月24日、自社データセンター(DC)の白井データセンターキャンパス(白井DCC)において、利用者の脱炭素化推進を支援する取り組みとして、非化石証書の直接調達を開始すると発表した。利用を希望する顧客に対し、非化石証書を活用した実質再生可能エネルギー由来の電力供給を今夏より開始することを目指す。

同日開催された記者発表会で、IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 データセンター基盤技術課長の堤優介氏は、「データセンターでは、主に電力会社の再エネメニューの利用により脱炭素化が進んでいるが、顧客への環境価値の提供手法が確立されていない」と現状を整理し、続けて、「データセンター利用者への再エネ利用証を含めた新しいニーズへの対応を進める必要がある」と説明した。

  • IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 データセンター基盤技術課長 堤優介氏

    IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 データセンター基盤技術課長 堤優介氏

非化石証書は、非化石電源で発電された電気から、「非化石価値」を切り離して証書化したもの。非化石価値は、電気の持つ「環境価値」の一種で、「非化石電源からつくられた電気である」という価値だ。ここで言う環境価値とは、発電時に二酸化炭素を排出しない、という点を指している。

石油危機を契機として1979年に制定された法律「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」は2022年度にも改正され、DC利用者によるエネルギー使用量の定期報告が義務化された。さらに2023年度省エネ法改正では、再生可能エネルギー(再エネ)を含む非化石エネルギー転換についての中期計画書と定期報告が求められ、DC利用者の環境価値付き電力の需要が高まると同社は予測している。

こうした社会要請を踏まえIIJは、2022年4月より、日本卸電力取引所の非化石価値取引会員に加入。これまで非化石証書は、小売電気事業者のみ購入が可能だったが、2021年11月から、需要家による購入や仲介が可能となり、この加入を通じて、同社がFIT非化石証書(太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなどの、FIT電源で発電されている電気に対して発行される証書)の直接調達を行うとのことだ。非化石証書を活用した実質再エネ由来の電力の顧客への供給をサービス化し、今夏からの提供開始を目指す。

  • 実質再エネ由来電力の提供イメージ

    実質再エネ由来電力の提供イメージ

また同社は、環境価値付き電力の供給に続いて、電力供給の割り当ておよび証明を自動管理する電力需給マッチングプラットフォームの商用提供を計画している。

関西電力が開発中のシステム「電力・環境価値P2Pトラッキングシステム」を用いて、白井DCCの利用者に環境価値付き電力を割り当てるための電力需給マッチングプラットフォームの実証実験を2023年3月に実施し、今後2024年度の商用提供に向けた詳細な開発を進めている。

同実証実験では、同システムを活用し、DC事業者と利用者間で、電力・環境価値の割り当てを確認した。ブロックチェーン技術を利用し改ざん不可能な状態で管理し、安全な利用証明を予定している。

さらに白井DCCではカーボンニュートラルの取り組みを積極的に進めており、再エネ電力の採用に加えて、自社DC内での太陽光発電の運用や、大容量蓄電池による空調電力のピークカットとピークシフトを実施。多様な電源調達を実施しているDCの電力「実データ」を利用し、電源割合の指定などの本プラットフォーム機能の有効性を実証したとのこと。

  • 電力需給マッチングプラットフォームの商用提供イメージ図

    電力需給マッチングプラットフォームの商用提供イメージ図

商用提供が実現されると、DC事業者がDC利用者に供給する電力量、および利用者が使用する電力量を管理し、利用者のニーズに応じて、発電者・場所・再エネ由来といった電力利用情報と環境価値を割り当て、利用者の再エネ利用を証明することが可能になる。

また、電力・環境価値調達の最適化や、環境価値の自動割り当てが可能になり、顧客ニーズへの柔軟な対応や管理コスト低減等のDC事業者側のメリットも期待することができるとのこと。

同社は2023年度中に第三者認証スキームなどの商用利用に向けた検討および追加検証の実施し、2024年度中に商用サービスの利用を開始する予定だ。

またIIJは今後、環境価値の余剰分をデータセンター利用者間で取り引きする仕組みや、ディーカレットDCPが進めるデジタル通貨を利用した環境価値取引と連動したデジタル通貨決済なども検討していく考えだ。

  • デジタル通貨決済など付加機能も検討していく

    デジタル通貨決済など付加機能も検討していく