ガートナージャパンは4月4日から4月6日、「ガートナー データ&アナリティクス サミット」を開催した。4月5日のガートナーセッションには同社のディスティングイッシュトバイス プレジデント、アナリストの亦賀忠明氏が登壇。「メタバース2030:フルデジタルの時代に備える」と題して、メタバースを含む「フルデジタル」の展望と、リーダーに求められる組織の作り方について解説した。

  • ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント、アナリストの亦賀忠明氏

メタバースは「フルデジタルの世界」を実現するテクノロジー

ガートナーは2023年以降、「メタバースは過度な期待を超えた幻滅期に入るだろう」と予想していた。企業からは「お祭りはすぐに終わった」「それほど儲からなかった」という声も寄せられたという。しかし亦賀氏は「このお祭り感に振り回されず、メタバースを中長期的なメガトレンドと捉える必要がある」と話す。企業はメタバースを短期的な施策の一つとして推し進めるのではなく、戦略的に導入・実装していくことが求められるというわけだ。

また、よくある誤解として「メタバース=VR」という認識が広まっていることにも言及。もちろんVRもメタバースがかなえる技術革新の一つに含まれる。ただ本来、メタバースは「フルデジタルの世界」という意味だ。

フルデジタルの世界は、「デジタルのリアル化」と「リアルのデジタル化」によってもたらされる。この双方向の変化がメタバースの本質だと言える。「そもそもメタバースという技術はなく、テクノロジーの集合トレンド」と亦賀氏は説明した。

  • フルデジタルの説明図

複数の要素がフルデジタルの世界を形成する今、特に重要なのは「People-Centric(人間中心)」であることだ。フルデジタルの世界において、サービスを作る人やテクノロジーを使う人の存在は欠かせない。ただし、日本においてはメタバースや最新技術などいわば”スーパーパワー”を使いこなせる人物の不足が課題となっている。亦賀氏は、これからテクノロジーをより民主化するためには人材の輩出が重要になると強調した。

また、亦賀氏はフルデジタル化を「産業革命」と表現し、今の日本に明治時代に起こった産業革命に近いインパクトを及ぼすものだと語る。この“波”に乗り遅れないよう、企業やリーダーはPeople-Centricな体系を作っていく必要があるとした。

People-Centricな組織を作るために、リーダーがとるべきアクション

AIの活用などさまざまなテクノロジーが一般化する中で、エンジニアやビジネスパーソンのスキル、リテラシーの向上はもはや必須となっている。では、フルデジタルの時代に適応できる人材にはどのような能力と素養が求められるのだろうか。

亦賀氏はテクノロジーを扱う人材に求められる要素として「スキルセット」「マインドセット」「スタイル(芸風)」の3つの能力を提示した。中でも、「マインドセット」が特に大事なファクターだという。「新しいスキルがあっても、やっていることが江戸時代と一緒であれば結局江戸時代のものが出来上がる」と話し、スキルセットとマインドセットを一致させる重要性を語った。

また、従業員のマインドセットを強化するには、経営者やリーダーが「言葉を変える」ことが変革の第一歩となる。

「儲かるのか、できるのか、どうするのか、というような言葉は新たなことを進める議論にはいりません。好奇心やチャレンジ精神を持ってもらえるような発言を(リーダーが)意識すべきです」(亦賀氏)

新たなチャレンジにおいて心理的安全性の確保は不可欠であり、リーダーはメンバーの心理的な安全性にコミットをする必要がある。リーダーの世界観に共感して活躍してもらうことこそ、People-Centricな組織の意義だからだ。

「人材育成」の時代は終わり「人材投資」へ

産業革命が進んでいく中で、「人材投資」は欠かせない。「産業革命に必要なのはF1レーサークラスの人材。ただ、人材育成のレベルではF1レーサークラスの人材は育てられない。投資対象となる人物を決めてコツコツと実行する体制を整えてほしい」と亦賀氏は説明する。

投資対象となり得るのは、CQ(Curiosity Quotient:好奇心指数)が高い人物だ。特に、新しいことにチャレンジして、手を動かせる人材への投資が望ましいという。

具体的な人材投資の手法は「時間」の整備と「環境」の整備に分類される。亦賀氏曰く、企業はエンジニアの業務負担を軽減させて、その余剰時間にリスキルを行っていく働きかけを推進することが望ましいべきだという。さらに、環境においては「本来、エンジニアやサイエンティストはこういう状態が好きなはず」とエンジニアが活性化するためのチェックリストを提示した。

  • エンジニアが活性化するためのチェックリスト

最後に、亦賀氏は「フルデジタル化は時間の問題。なるかならないかではなく間違いなくフルデジタル化は進む。(聴講者の皆さんには)今日の講演内容を会社に持ち帰っていただき、経営トップの方々と議論いただきたい」と訴えかけた。