日本オラクルは4月14日、「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催した。日本オラクルが対面形式の大規模イベントを開催するのは約3年ぶりだ。
基調講演のテーマは「変化の激しい世界でビジネス成果を上げるために」。講演の冒頭、米Oracle レベニュー・オペレーション担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのJason Maynard(ジェイソン・メイナード)氏が、オラクルのクラウド戦略、グローバルでの活動について説明した。
メイナード氏は、「我々の役割は複雑化するクラウドの課題解決をサポートすること。カスタマーサクセスにフォーカスして成功を支援し、そのための新しい機能の導入や活用も支援する。さらには、テクノロジー領域にとどまらずビジネスに対して有意義な変化を及ぼしていきたい」と、語った。
また基調講演では、日本オラクル 取締役執行役社長の三澤智光氏が顧客との対談を披露。本稿ではトヨタ自動車(トヨタ)との対談内容を紹介する。トヨタ 情報システム本部 IT変革担当CPLの岡村達也氏が、同社が抱えるDXの課題、そしてその克服への取り組みを語った。
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日本オラクル 取締役執行役社長 三澤智光氏
「ヒト」「モノ」「カネ」を軸にしたトヨタ流のDX
トヨタが本格的にDXに取り組むようになったのは、2021年のこと。同年3月に開かれたトヨタ自動車労使協議会にて、当時の社長である豊田章男氏が「この3年間で、世界のトップ企業と肩を並べるまで、一気にもっていきたい」と、初めてデジタル化について発言したという。
岡村氏は、「世界中でコロナ禍によりデジタル化に対する動きは盛んだったが、世界のトップを狙うという豊田の発言には正直驚いた」と、当時の心境を振り返った。
また同社は、2021年1月に社長直轄の組織「デジタル変革推進室」を新設。全社からの公募で150名以上の社員が手を挙げ、「会社を変えたいというチャレンジ精神に溢れたメンバーが集まった」(岡村氏)という。
大きな目標を掲げているトヨタは、DXを「ヒト」「モノ」「カネ」の3軸で進めている。
「ヒト」に関しては、人材育成に注力。具体的には、「デジタルネイティブを後押しする活動」と、「デジタル化になじめずに困っている人への支援」の両面を推進しているという。
例えば、Microsoft Teamsの基本から応用編までをレクチャーする「今さら聞けないTeams塾」では、多岐にわたるコースを提供しており、一般社員だけでなく、役員から課長クラスまでも参加できる内容となっている。
また、「市民開発」にも力を入れて推進している。市民開発とは、非IT人材である業務部門の社員が、ノーコードツールやローコードツールでシステム開発を行うこと。
「トヨタの強さはやはり現場にある。現場を一番知っている人が、ソフトを開発し仕事の展開を理解したうえで自らソフトを直すほうがいい。新開発が多いトヨタの改善文化にも適していると思っている」(岡村氏)
「モノ」に関するDXでは、「トヨタ生産方式(TPS)」の思想をバックオフィスにも取り入れている。これは、生産ラインの無駄を徹底的に排除するために確立された生産方式で、「必要なもの」を「必要な量」だけ「必要な時」に、供給する考え方という。
この考え方を軸として各部署から「デジタル化で解決できる案件」を募集したところ、1600件以上の応募があったとのこと。
最後は「カネ(予算)」を基軸としたDXだ。
「これまでは各部署が限られた予算のなかでデジタル化を推進してきた。しかしそれぞれの要望を聞くといくら予算があっても足りないことに気づいた。そこで、予算を一元管理し、会社全体で優先付けをしながらデジタル化を進めるように舵を切った」と、岡村氏は説明した。
予算を一元管理することで、すべてのプロジェクトを可視化できるようになった。結果的に、「全社員へのサイバーセキュリティリスクの周知につながっている」(岡村氏)とのことだ。
みえてきたDXの壁「決して進んではいない」
順調にみえるトヨタだが、DX化を進める上でみえてきた課題は少なくないという。
「ここまでの話を聞いて、『トヨタのデジタル化は進んでいるのではないか』。そう思うかもしれないが、決してそうではない」と、岡村氏は神妙な顔つきで語った。
まず、大きな課題の一つに、「社内の温度差」がある。「デジタル化に積極的な部署とそうでない部署とのギャップが大きい。デジタル研修に時間を割くことに対して不信感を抱いている上司がいることも事実だ」(岡村氏)という。
また、ツールが乱立しており、既存プロセス前提の巨大なレガシーシステムも問題視されている。足元改善ばかりで、全社的なプロセス改革になかなか踏み出せていないことも事実だ。さらに、情報を他部署にオープンにすることに対して躊躇している人が多いのも変わっていないとのことだ。
「組織と人材、システム、プロセス、ルールのそれぞれが鎖のようにつながっていて、どれかが一つデジタル化しようとしても、他の要因がそれを阻害し、なかなか前に進めない。これはトヨタの失敗だ」(岡村氏)
「改善」と「変革」の二刀流で挑む
では、トヨタはこれらの課題をどう乗り越えていくのだろうか。
岡村氏は、「トヨタには改善の文化がある。改善と変革の二刀流でトヨタらしいデジタル化を進めていきたい」と、展望を示した。
「目の前の課題に真摯に向き合い続け、一つひとつの課題を愚直に解決していく。それと同時に、2030年あるいは2040年にトヨタが実現したいこと『北極星』を定め、未来からのバックキャストで変革を起こしていく。トヨタのこれからの変革が楽しみだ」(岡村氏)