群馬大学大学院理工学府分子化学部門の粕谷健一教授の研究グループは、還元環境スイッチング機構を導入した海洋分解性プラスチックの研究開発成果の1つとして、ポリブチレンサクシートの構造の中に、イオウ(S)原子からできている「ジスルフィド結合」を導入して海洋分解性を付与した研究開発成果を公表した。

「このジスルフィド結合を導入したポリブチレンサクシートが海の中に落ちて、そのポリブチレンサクシートが海底まで沈んで行って海底の泥の中に埋まると、ジスルフィド結合部分が開裂(かいれつ)して、低分子量のプラスチックに生分解し始める仕組みだ」と解説する。

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    海洋分解性プラスチックが海底まで沈んで行って海底の泥の中に埋まると、ジスルフィド結合部分が開裂(かいれつ)して、低分子量のプラスチックに生分解し始める仕組み。ここでは、ジスルフィド結合を導入したポリブチレンサクシネートの模式図を示している(広報資料から引用)

今回の研究開発成果は、粕谷教授のほか、群馬大学大学院理工学府の筒場豊和特任助教、橘熊野准教授、清水萌衣(博士前期課程修了)氏の研究チームによるものとなるという。詳細は米国化学会の「ACS Applied Polymer Materials」にオンライン掲載された

還元環境になると開裂するジスルフィド結合をポリブチレンサクシネートの構造中に導入することによって、そのプラスチックが海底に到達し、泥の中に埋まると還元環境になるために、イオウ原子の結合が開裂し(切れて)、プラスチック全体が低分子量化することによって生分解が開始するという仕組みになっている。「ポリブチレンサクシネートは、生分解性プラスチックの1種として利用されているプラスチックだという。

粕谷教授の研究グループは、新エネルギー・産業技術研究開発機構(NEDO)が2020年度から始めた「ムーンショット型研究開発事業の目標4」が目指す「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源環境を実現」の研究開発担当するプロジェクトマネジャー(PM)の1人として、「生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発」を進めている(注)。今回のジスルフィド結合を導入したポリブチレンサクシートは、その研究開発成果の1つである。現在は多彩な生分解開始スイッチ機能を導入した海洋分解性プラスチックを研究開発している途中だ。

注:NEDOが進めているムーンショット型研究開発事業の目標4は、2020年8月に各研究開発プロジェクトが採択され、事実上、その時点から研究開発が始まったものとなる

この「生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発」は現在、群馬大に加えて、東京大学、東京工業大学、理化学研究所、海洋研究開発機構が参加している。今後は、海洋分解性プラスチックを製造・販売する企業との共同開発を進めていく態勢を構築する計画を進めている。2022年度には、カネカと日清紡ケミカルが参画した模様だ。