米国航空宇宙局(NASA)とボーイングは2023年3月30日、有人宇宙船CST-100「スターライナー」の有人飛行試験(CFT)の打ち上げ時期について、7月21日以降を目標にすると発表した。

これまでは4月末の実施が予定されていたが、宇宙船の検証、認証に時間がかかっており、また他のロケットの打ち上げとの干渉を避ける必要もあることから、延期を決めたという。

  • NASAケネディ宇宙センターで組み立て中のスターライナー宇宙船

    NASAケネディ宇宙センターで組み立て中のスターライナー宇宙船 (C) Boeing/John Grant

スターライナーの有人飛行試験ミッション「CFT」

CST-100 スターライナー(Starliner)は、ボーイングの有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)などに宇宙飛行士を運ぶことを目指し、開発が続いている。

2019年12月には初の無人飛行試験が行われたものの、トラブルが相次ぎ、ミッションを中断し、地球に緊急帰還する事態となった。その後、改修を経て、2022年5月に2回目の無人飛行試験を行い、無事に成功を収めている。

そして現在は、有人飛行試験ミッション「CFT」を行うための開発や準備が続けられている。

CFTでは、NASA所属のバリー・ウィルモア宇宙飛行士とスニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士の2人が、実際に宇宙船に搭乗する。宇宙船は「アトラスV」ロケットで打ち上げられ、ISSにランデヴー、ドッキングを行ったのち、着陸して回収するまでの一連の流れ、機能を試験することを目的としている。

このCFTが成功すれば、スターライナーは運用段階に入り、定期的に宇宙飛行士をISSへ送り届けることになっている。

今年2月17日に行われた記者会見では、CFTの実施時期について、4月末を目標にするとされていた。しかし3月30日に開催された記者会見では、7月21日以降を目標とすることが発表された。

NASAは延期の理由について、NASAとボーイングが宇宙船のサブシステムの検証試験を終え、飛行試験のための認証を完了させるために時間が必要とした。また、ISSの運用計画や、他のロケットの打ち上げ予定との兼ね合いもあり、打ち上げが可能な日は7月21日以降しかなかったと説明している。

現時点で、スターライナーの飛行試験に必要な認証のうち、約90%が完了しているという。残りの約10%は、パラシュート・システムや、緊急時に宇宙船を手動で飛行させるバックアップ・モードなど、いくつかのサブシステムの検証に関するものだとされる。

ボーイングでスターライナーのプログラム・マネージャーを務めるMark Nappi氏は、「パラシュートの認証作業の遅れは、弊社とNASAの両方に責任があります。私たちはNASAにパラシュートを届けるのに時間がかかりましたし、NASAが私たちと一緒にレビューするのにも少し時間がかかりました」と述べている。

NASAで商業クルー・プログラムのマネージャーを務めるSteve Stich氏は、「ほとんどの認証作業は4月中に完了する予定です。しかし、パラシュート・システムについては、5月までかかる見込みです」と述べた。

「パラシュート・システムそのものに問題や懸念があるわけではありません。データを分析し、安全に飛行できる準備が整っていることを確認するのに時間が必要なのです」。

なお、5月や6月の打ち上げも検討されたものの、6月にはスペースXの無人補給船「カーゴドラゴン」の打ち上げが予定されており、スターライナーが使用するドッキング・ポートにドッキングすることから、この時期の打ち上げは不可能と判断された。

なお、7月21日という日付も決定されたものではないとしている。6月以降には米宇宙軍の軍事衛星の打ち上げも予定されており、それが遅れれば時期が被り、そして軍事衛星のほうが、優先順位が高いため、スターライナーの打ち上げがさらに遅れる可能性も示唆された。

一方、スターライナーの製造や組み立ては順調に進み、すでに完了しているという。チームは現在、宇宙船の最終的な内部クローズアウト作業に取り組んでおり、機器や物資のほとんどは積み込みが完了しているという。次の大きなマイルストーンは、宇宙船への燃料充填や発射施設への輸送になるとしている。

また、スターライナーを打ち上げるアトラスVロケットについては、NASAによる準備評価を終え、飛行可能であることの認証が完了しているという。現在ロケット機体は、打ち上げが行われるフロリダ州ケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーションにあり、今後の組み立てや宇宙船の搭載などの作業を待っている段階にある。

CFTで飛行するウィルモア宇宙飛行士とウィリアムズ宇宙飛行士の準備も順調に進んでおり、今年2月と3月には、宇宙飛行士が軌道上で使用する道具や機器、ハードウェアを使って実践的な訓練が行われた。この訓練では、宇宙船の座席の調整、宇宙船のインタフェースの検査、フロア・パネルとサイド・ハッチの操作の確認など、船内の点検や検査を実施したという。また、宇宙船内に物資や機器などを実際に搭載した状態で、宇宙飛行士の移動や操作に支障がないかという確認も行ったとしている。

  • NASAケネディ宇宙センターで組み立て中のスターライナー宇宙船

    NASAケネディ宇宙センターで組み立て中のスターライナー宇宙船 (C) Boeing/John Grant

スターライナーとは?

スターライナーはボーイングが開発中の有人宇宙船で、ISSや、民間企業が開発する商業宇宙ステーションに宇宙飛行士を輸送することを目的としている。

コードネームは「CST-100(Crew Space Transportation-100)」で、また愛称のスターライナーは、B787の愛称「ドリームライナー」などに合わせたものでもある。

直径は4.56m、全長は5.03mで、最大7人の宇宙飛行士が搭乗できる。

宇宙船は、宇宙飛行士が乗るクルー・モジュールと、太陽電池やスラスター、バッテリーなどが搭載されているサービス・モジュールとに分かれている。

クルー・モジュールのうち、耐熱シールドなど以外の主要な構造物は、最大10回の再使用を可能としている。船内にはボーイングの旅客機B787やB737にも採用されているLED照明「Sky Lighting」や無線インターネットが備えられているほか、サムスンとの技術協力によるタブレット型の操作パネルも採用されている。

サービス・モジュールには、発射台上や飛行中のロケットから脱出する際に使う4基の強力なスラスターのほか、姿勢制御や軌道変更に使うスラスターが集まったポッド状のOMACを装備する。太陽電池は同モジュールの底面に貼り付けられている。

そのほか、船体は無溶接設計を採用する。また、自動化技術により完全な自律航行が可能で、乗組員の訓練時間の短縮を実現している。さらに、民間航空機での知見で得られたベストプラクティス(ある結果を得るのに最も効率のよい方法)が採用され、緊急時にパイロットが手動で制御することもできるようになっている。

  • 2022年5月に行われた、2回目の無人飛行試験(OFT-2)の打ち上げの様子

    2022年5月に行われた、2回目の無人飛行試験(OFT-2)の打ち上げの様子 (C) NASA/Joel Kowsky

参考文献

NASA, Boeing Prepare for Starliner Flight This Summer - Commercial Crew Program
NASA, Boeing to Host Media Briefing, Provide Starliner Update | NASA