AIが進化し、さまざまな分野で実用化されている。アパレル業界も例外ではなく、AIを活用した新たな取り組みが進んでいる。その一つが、パーソナルスタイリングサービス「DROBE」を提供するDROBE社と、レディースアパレルブランド「NOLLEY'S」とのコラボレーションだ。両社は独自のAIと蓄積された会員データを基に“売れる服”の開発に挑み、2021年秋冬からオリジナル商品の販売を開始している。通常、衣服は顧客ニーズを踏まえながらも、トレンドや季節感など変動性の高い要素を取り入れる必要があり、人の感覚に頼ってつくられる部分が大きい。ここに両社はどのようにAIを取り入れ、今どのような手応えを感じているのか。
DROBE社 代表取締役社長CEOの山敷守氏と同社 執行役員 CMDOの佐熊陽平氏と、NOLLEY'Sを展開するノ-リーズ 取締役執行役員 第一事業部 部長の小島直樹氏にお話を伺った。
洋服選びにAIを使う難しさ
DROBE社が手掛けるパーソナルスタイリングサービス「DROBE」では、利用者のアンケート回答を基に、プロのスタイリストと「スタイリングAI」がニーズに合う商品5点を選択。着こなしのポイントなどを記載した「スタイリングカルテ」と共に「セレクトボックス」として配送される。利用者は自宅などで試着し、気に入った商品を購入できる仕組みだ。
サービスリリース当初はスタイリストが約4時間かけ、20万点弱の商品から1人の利用者のための5点を選んでいたと山敷氏は振り返る。
「スタイリストだけでは全ての商品を見ることができず、サービスとしてクオリティの限界を感じていました」(山敷氏)
そこで同社はサービス開始後約半年で、“商品を全て見ることができる”AIの導入を決めた。もともとDROBEでは利用者にチャットカウンセリングなどを行い、常にニーズを把握するようにしていた。その過程で蓄積された約1万人のユーザーデータに加え、スタイリストが何回選択したことのある洋服か、実際の購入に結び付いたかどうかといったデータと、数十万点の商品データを学習させ、約半年かけてAIモデルを作成したという。
ただし、AIは一度学習したらそれで完成ではない。AIの予測結果はモデル作成時の学習データに依存するため、精度の高い結果を得るには適切な頻度で学習し直すことが必要となる。工場の生産プロセスや特定の業務フローなど、変化が少ない分野ならまだしも、洋服には季節やトレンドといった要素による変化が付きものだ。そのため同社では現在も1日1回AIにデータを学習させている。
「洋服は正解が毎日変わるものです。常に情報をアップデートしていかないと、予測の精度が下がってしまいます」(佐熊氏)
だが、洋服に関するデータが多ければ多いほど良いわけではない。洋服のかたち、素材、色、ディテールといった情報が細分化され過ぎると、AIがものを識別するための「次元」が多くなり、かえって対象が洋服なのか何なのかすら分からなくなってしまうのだ。
「洋服の場合、どこまでを同一のものと見なすのかの判断が難しくなります。そこで商品情報やブランドなどを掛け合わせて、判断をさせるようにしているのです。この“次元のチューニング”にテクニックを使っています」(山敷氏)
ニーズに合った一着を生み出すチャレンジへ
山敷氏はDROBEの勝負どころを「顧客に合った商品をいかに提供できるか」だと言う。実際、5点の商品を配送し、1点でも購入した利用者は会員を継続する率が高く、1点も購入しない利用者は会員を止めてしまう率が高いというデータがあるそうだ。しかし、必ずしもすでに完成された洋服の中に、利用者のニーズにぴったりと合った1点がある訳ではない。そこで同社は2021年の秋冬に、AIによるニーズ予測を基にした商品の開発・製作に着手し、オリジナル商品の販売に踏み切った。
「これまで購入に結び付かなかった利用者にとってもベストなものをつくることができれば、スタイリングサービスの継続性を維持できると考えました」(山敷氏)
「自社ブランドがつくりたいというよりは、お客さまのニーズに合った商品をつくりたい、ニーズに合った商品のつくり方を見つけ、ブランドに還元したいという思いで、商品製作を始めました」(佐熊氏)
実際に自分たちで商品の企画から販売までを行ったことで、DROBE社には新たな発見があったと佐熊氏は明かす。
「我々はものづくりを主としているチームではありません。企画をすることはできますが、それをかたちにする難しさを知りました。また、生産管理や配送といった面でも課題が多く上がりました。実際に、納品時期がずれ、希望の時期に商品が間に合わないといったこともあったのです」(佐熊氏)