今、地球温暖化の解消に向け、世界中の人々が「カーボンニュートラル」「脱炭素」に取り組んでいる。企業もまたこれらに取り組むことが求められている。そうした中、三井物産は全社を挙げて、脱炭素ビジネスを進めている。同社の「脱炭素ビジネス」はどんな強みを持っているのだろうか。
今回、同社で脱炭素ビジネスの情報発信を統括している執行役員 デジタル総合戦略部長の真野雄司氏に話を聞いた。
なぜ、三井物産が脱炭素に取り組むのか?
現在、さまざまな企業が脱炭素に関するビジネスを立ち上げているが、三井物産がこのビジネスに取り組む理由は何か。
真野氏は、「当社は総合商社なのでいろいろな仕事をしており、脱炭素ビジネスの切り口もさまざまです。こうした中、一番大きいのは当社のビジネスの主力が資源だということです。われわれは資源の安定供給が重要だと考えており、そうした意味で、脱炭素によくないからといって、石油の供給は止められません。安定供給の責任を負っているからこそ、環境に与える影響を緩和できるソリューションもあわせて提供していきたいと考えています」と説明する。
また、真野氏は「現在手掛けているビジネスの価値をさらに上げるためでもあります」とも語る。
「エネルギーを売るだけでは足りません。エネルギーを環境への負荷を減らしながら使うことができるかを考えると、既存のビジネスを否定せずに、よりよく提供できるかということが大切です。カニバリゼーションではなく、脱炭素に取り組むことで、既存のビジネスも強化できます」(真野氏)
デジタル総合戦略部が脱炭素ビジネスの取りまとめ役に
三井物産はWebサイト「Green&Circular」において、脱炭素ソリューションを体系的にまとめて発信している。そこでは、同社が提供している脱炭素ソリューションを4つのステップ7つのカテゴリーで整理している。 4つのステップとは、「排出量を把握する」「資源利用を減らす」「化石燃料を代替する」「CO2を吸収する」だ。
これらのソリューションの提供には16事業本部の大半が関わっており、まさに「全社を挙げて脱炭素に取り組んでいる」状態だ。なお真野氏によると、すべての事業部が脱炭素ビジネスに一斉に取り組みを始めたわけではなく、事業本部が個別にやってきたのだという。
そのため、どの事業部が何をやっているかがわからない状態ではいけないだろうということで、デジタル総合戦略部が旗振り役として乗り出すことになった。
そもそも、なぜデジタル総合戦略部が脱炭素ビジネスの情報発信を取りまとめることになったのだろうか。その理由について、真野氏は次のように語る。
「デジタル総合戦略部はその名の通り、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。デジタルは横串で進めていくものなので、われわれはどの事業部で何をやっているかを把握しています。そこで、デジタル総合戦略部が社内の脱炭素ビジネスを俯瞰した上で、ソリューションを組み合わせていくことで、さらにいいものができると考えました。われわれは、会社全体の見える化と同時にコラボレーションを進めています」
また、真野氏は「脱炭素はDXがなければできない」と話す。というのも、脱炭素は可視化がスタートとなり、それにはデータが必要であり、データをどう組み合わせるかを考えたら、DXのスタートとなるからだ。
「データが集まれば、AIをつかって予測することが可能になります。近未来を予測することで、エネルギーの使われ方、太陽光や風力からの発電の予測、最適化が可能になります。データとDXは切っても切れないのです」と真野氏はいう。
強みは、総合力を掛け合わせてイノベーションを生み出しやすいこと
では、脱炭素ビジネスにおいて、三井物産はどんなアドバンテージを持っているのだろうか。真野氏はまず、競合の総合商社に対しては、「16のビジネスの垣根が低くて、連携できる点が強みです」と述べた。
脱炭素ビジネスとなると、競合は他の業種にもたくさんいる。他の業種の企業に対する強みについて、真野氏は次のように説明した。
「1つのことに特化している企業はそれしかできません。しかし、総合商社はある問題を解決しようとしたとき、社内の別な領域からソリューションを持ってくることができます。それらを組み合わせることで、新しいサービスを提供できるのです。DXを進めていると、それを実感します」
DXの目的の一つにイノベーションの創出があり、「イノベーションを生むために、他業種の企業と提携しました」という話をよく聞く。他社と提携を結ぶにしても、相手をよく見極めないと、目的の達成が危うくなる。つまり、提携も簡単な話ではない。
しかし、多様なビジネスを手掛ける総合商社なら、社内に連携できるリソースがある可能性が高い。真野氏は、「広い領域でビジネスをやっているということは、それぞれの領域のネットワークに詳しいということ。その領域のパートナーも簡単に連れてくることができます」という。同社の若手社員も「うちの会社ほど、いろいろな人を連れてこられる会社はない」と話しているそうだ。
「とかく『イノベーションはスタートアップでなければ』と言われがちですが、こうしたことはスタートアップではできないでしょう。イノベーションを起こすのに、三井物産ほど適した会社はないというのが率直な感想です」と真野氏は語る。
そして、真野氏は今後の展望について、「脱炭素はまだまだ途上であり、日本はヨーロッパとくらべてまだやることがあります。つまり、ビジネスとして伸びる余地があります」と説明する。
さらに、真野氏は「日本は、先進的なルールを作る位置にまで行くべきと考えています。ルールを作るところまで踏み込んでいくと、日本はもっとよくなるのではないでしょうか。どうすれば、世界は持続可能になっていくのか。日本はそのリーダーになっていくべきであり、三井物産が引っ張っていきたいと思います」と力強く語っていた。