アリババクラウドは3月22日、Web3関連の製品やソリューションについて、顧客およびパートナー企業らと共に語るイベントを東京都内で開催した。本稿ではそのセッションの中から、同社のWeb3エコシステムに関する今後の戦略について取り上げたい。
Web3でアリババグループが発揮する強み
アリババクラウドはこれまでに多くのブロックチェーン関連技術で特許を取得しており、その数は世界でもトップクラスだ。特にアリババグループの研究機関である達摩院(以下、DAMOアカデミー)がこの結果に貢献しているという。
2017年10月に設立されたDAMOアカデミーは、多くのブロックチェーンやAI(Artificial Intelligence:人工知能)エンジニアを擁し、これまでに4兆8000億円の資金を調達し研究開発を進めている。研究者は、執筆した論文数や研究ポストではなく、開発した技術が社会実装されたかどうかで評価される点が特徴的だ。
こうした技術を活用して、アリババグループは複雑な国際貿易に必要な決済・保険システムをスマートコントラクトで実装した国際貿易決済サービス「Trusple」や、著作権情報を中国政府の公的なチェーンに書き込むことで著作権保護や証拠保全を実施する中国著作権申請・保護サービス「DCI」など、ブロックチェーンを活用したさまざまなビジネスを開発している。
同グループのクラウド技術は、中国最大規模の商戦イベント「独身の日」において多量のトランザクションをセキュアにさばけるなど、その堅牢さで知られる。このクラウド基盤に基づくアーキテクチャをトークン取引所などに提供しているという。
また、GameFi(Game:ゲームとFinance:金融を組み合わせた造語)でも同社のアーキテクチャが活用されている例があるそうだ。ブロックチェーンに刻まれているオンチェーンのデータと、各ゲーム内で扱われるオフチェーンのデータを連携した分析に強みを持つとのこと。ブロックチェーン上である行動をしたユーザーがゲーム内ではどのような行動をするのかを分析できれば、よりユーザーを引き付けるコンテンツの提供にもつながる。
アリババグループのWeb3戦略とは?
アリババグループはWeb3アプリケーションの開発を支援するために、主に3つのブロックチェーンサービスを展開する。その3つとは、「Blockchain Node Service」「Blockchain Data Service」「Blockchain Development platform」である。
Blockchain Node Serviceは、ブロックチェーンの立ち上げと保守・運用をアリババグループが支援するサービス。Blockchain Data ServiceはGameFiの例のような、オンチェーンとオフチェーンのデータを連携して同一のフレームワークで分析可能なサービス。Blockchain Development platformとは、その名の通り開発者向けのプラットフォームサービスだ。容易なスマートコントラクトの実装やクライアントのアプリケーションからサーバを容易に呼び出せることを目的とするツールを提供する。
Blockchain Node Serviceは3月22日から招待制で一部の顧客にテスト提供を開始している。5月ころにはβ版として公開する予定だ。また、Blockchain Data Serviceはは2023年の第2~第3四半期を目途に提供を開始する。Blockchain Development platformは2023年第4四半期をめどに提供を開始するとしており、API(Application Programming Interface)やローコードの開発ツールなどを公開するようだ。
特に日本において、アリババグループはパートナー企業らと共に包括的なソリューションを提供する方針だ。Foreはスマートコントラクトのセキュリティをおよそ24時間以内に評価するサービスを提供し、COCOSはHTML5ゲームを開発可能なツールを提供する。
また、Safeheronが提供するのは"Wallet as a Service"だ。これにより、ゲーム中にサービスや画面を遷移することなくゲーム内で直接ウォレットを扱えるようになるため、ユーザビリティ向上が期待できるという。
さらに同グループは、ゲーム開発者向けのブロックチェーン・ラボの開設や、ハッカソンの開催などを通じて、ゲーム業界を中心にクリエイターのエコシステムを支援していくとのことだ。
アリババクラウドで日本のカントリーマネジャーを務めるUnique Song(ユニーク ソン)氏は「今後もアリババクラウドはブロックチェーンに関わるさまざまなビジネスを支援していきたい。特に東南アジアの新規ビジネスを開発する際の中心的存在になれれば嬉しい。多くのイベントを当社がホストし、人やビジネスをつなげる機会を届けていく」と抱負を述べていた。