ウクライナ製を使った理由、そして反論

今回の発表をめぐって、大きなキーワードとして取り上げられたのがウクライナの存在である。

もともとヴェガC、また先代のヴェガも、ウクライナのユージュノエは開発や製造に深く関与しており、とくに第4段の液体ロケット段「AVUM」には、同社製のRD-843エンジンが使われている。今回問題となったC/C製スロート・インサートを製造したのもユージュノエだった。

同社製の部品を採用した理由について、アヴィオのGiulio Ranzo氏によると、「ヴェガC の設計段階(2015年から2017年)では、既存の欧州のサプライヤーは十分な量のC/C材を供給できない可能性があった。そのためウクライナ製を採用した」と語った。

またRanzo氏は、「今回の失敗が起こる前から、ロシアのウクライナ侵攻による供給停止のリスクを軽減するために、アリアングループから代替となるC/C材を取得するために働いていた」とも語った。ただ、前述のようにもともと欧州製は供給力が不足していたことから、「現時点では、中期的――いくつかのヴェガC の打ち上げに必要な分だけのソリューションが提供される。そのため、長期的な供給方法を確立することが必要だ」とも語られた。

こうした中、3月6日にはウクライナ国立宇宙庁が、ウクライナ製部品の欠陥が原因とする調査結果に反論する声明を発表した。

同庁は「独立調査委員会が提示した結論は時期尚早であり、ウクライナの宇宙産業の評判に影を落とすものだ。ヴェガCの打ち上げ失敗の原因となった追加要因があるかどうかを特定するために、さらなる調査が必要だ」と訴えている。

また、「ウクライナ国立宇宙庁は、ウクライナの宇宙産業が欧州のパートナーに供給したすべての製品が、課せられた要求仕様に完全に適合していたことを強調したい」ともしている。

そして、「ウクライナの専門家は、認められた範囲内で調査の一部に参加したが、その考察や提案は、独立調査委員会の結論に反映されていない。欧州のパートナーが、我々の提案とともに、他の潜在的要因を考慮した追加の分析と考察を行うことを奨励する」と述べている。

これを受け、ESAのヨーゼフ・アッシュバッハー長官は「委員会が出した結論は、ウクライナやウクライナの宇宙産業の素晴らしさを非難するものではありません」との声明を発表し、火消しに追われることとなった。

欧州とウクライナのどちらに責任があるかは難しい問題である。発表ではその点は明確には述べられていないものの、ウクライナ国立宇宙庁が反論したように、ウクライナに非があるように読める内容になっていることは否めない。

ただ、前述のように、そもそもの要求仕様が間違っていたということは、むしろ欧州側に責任があるという解釈もできる。一方で、認定試験や初打ち上げで問題が出なかった理由が過剰品質だったからということは、ユージュノエの品質管理にも問題があったことを示唆している。過剰品質は決して良いことではなく、仕様と合致していない時点で本来は不適合になるべきものであるからだ。もっとも、その部品を問題ないとして検収し受け入れた欧州側にもやはり問題があったと言えよう。

そうしたこと以上に深刻なのは、今回の発表がウクライナ側の同意を得ずに行われたものであるという点である。背景はともかく、「ウクライナ製部品に問題があった」という内容を発表する以上は、事前に内容について同意しておくことが当然であろう。また、ウクライナ側から「考察や提案を行ったものの独立調査委員会の結論に反映されていない」と非難されていることからも、不協和音が生じていることが窺える。

  • 第2段モーターを噴射して飛ぶヴェガCの想像図

    第2段モーターを噴射して飛ぶヴェガCの想像図 (C) Arianespace

信頼回復なるか

いずれにせよ、今後の焦点は、ヴェガCの信頼が回復できるかという点である。

古今東西、新型ロケットが打ち上げに失敗することは珍しくなく、その失敗を乗り越えることで信頼性が上がっていく。ヴェガCの打ち上げは今回が2機目であり、つまり“洗礼”として仕方がない失敗だったと言えなくもないが、やや事情が異なる点もある。

ひとつは、失敗の原因が品質の問題だった点である。C/C材が過剰品質だったこと、それでも検収試験を通過してしまっていたこと、そもそもの要求仕様が間違っていたことは、単なる新型ロケットだったからという次元の話ではなく、ものづくりにおいてかなり深刻な問題があったことを示唆している。欧州とウクライナとのコミュニケーションに問題があったことが窺える点もそれに拍車をかけている。

もうひとつは、ヴェガから失敗が相次いでいるという点である。ヴェガは、2019年と2020年に1機ずつ失敗している。とくに2020年の失敗は、今回と直接の共通点はないものの、同じような品質管理の欠陥が原因と結論づけられている。また、ヴェガ・シリーズとして失敗が相次いだことも信頼性に大きな疑問符を投げかけている。

ヴェガCは欧州の基幹ロケットであり、その双肩には欧州の宇宙輸送の自立性がかかっている。また、打ち上げコストの低減や安定した打ち上げを続けるためには、他国の企業などからの商業打ち上げも獲得し、打ち上げ数を増やす必要があり、その点でも信頼性の回復は急務である。

はたしてヴェガCは無事によみがえることができるのか。欧州のロケット産業は、大きな試練のときに直面している。

  • 打ち上げ準備中のヴェガC VV22

    打ち上げ準備中のヴェガC VV22 (C) ESA-CNES-ArianeGroup-Arianespace-Optique video du CSG-JM Guillon

参考文献

ESA - Loss of flight VV22: Independent Enquiry Commission announces conclusions
ESA - Media briefing on the loss of the Vega-C Flight VV22 mission
Information about the situation with Vega C LV launch - State Space Agency of Ukraine
Vega C - Arianespace
Loss of flight VV22: Independent Enquiry Commission announces conclusions - ArianeSpace