岡山大学と高輝度光科学研究センターは3月1日、食塩を構成する成分の1つである塩化物イオンが、甘味やうま味の受容体に作用して味覚を引き起こすことを発見したと共同で発表した。

  • (左)今回の研究結果の概略。(右)マウスを使った味覚実験の様子

    (左)今回の研究結果の概略。(右)マウスを使った味覚実験の様子(出所:岡山大プレスリリースPDF)

同成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科・薬学部の渥美菜奈子大学院生(研究当時)、同・高科百合子大学院生(研究当時)、同・伊藤千晶大学院生(研究当時)、同・安井典久准教授、同・山下敦子教授、東京歯科大学短期大学の安松啓子教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「eLife」に掲載された。

ヒトの口内には、甘味・うま味・塩味・苦味・酸味の5種類の味覚受容体が存在する。各受容体に「鍵穴」のようなポケットが存在し、「鍵」である味物質がぴたりと適合することで、受容体がそれぞれの味物質を特異的に認識していると考えられている。なお、この味覚感知のシステムは、魚類からヒトまで、脊椎動物に共通して存在するという。

ところが、食塩が引き起こす味は、不思議な性質を持つことが知られている。ヒトは、味噌汁に含まれる濃度に近い0.8~1%程度の食塩水は、おいしい塩味として感知する。それに対し、その10~20分の1程度のずっと薄い食塩水になると、甘く感じられる。この現象は約60年前の心理学の研究論文で報告されていたが、なぜ起きるのかは現在まで不明だったという。

味覚受容体における「鍵と鍵穴」の関係を調べる最も優れた方法は、受容体タンパク質の形を原子レベルで調べる立体講義解析だ。岡山大の研究チームは、味覚受容体として初めて、ヒトの持つ甘味やうま味の受容体と同じタイプの受容体として、メダカが持つ味覚受容体「T1r2a-T1r3」の味物質センサ領域の立体構造を、2017年に解明している。この成果は現在も、甘味やうま味の受容体で構造がわかっている唯一の例となっているという。そこで今回の研究では、その構造を詳細に調べたという。

分析の結果、メダカの受容体が感知する味物質であるアミノ酸が結合するポケットのすぐそばに、何か別の物質が結合しているポケットが存在していることが確認された。これについて詳細に調べた結果、ポケットに結合しているのは、塩化物イオンであることが判明したとする。

この塩化物イオン結合ポケットは、甘味受容体とうま味受容体の共通の構成要素である「T1r3」にある。メダカだけでなく、ヒトが持つ甘味受容体やうま味受容体も含め、ほとんどの動物の持つ受容体にも存在することも解明された。