順天堂大学、グローリー、日本IBMの3者は2月28日、都内で記者説明会を開き、共同で研究してきた認知機能推定AIを金融取引業務で活用する日本初の「金融商品適合性チェック支援アプリ」を開発し、3月1日から三菱UFJ信託銀行でパイロット運用を開始すると明らかにした。今後、同アプリを他の金融機関に展開していくことも検討しているという。
認知や判断などの能力に配慮したサービス
高齢化社会では、認知や判断などの能力は加齢とともに低下する傾向があり、金融商品取引において、その影響を配慮したサービスが課題となっている。また、日本証券業協会のガイドラインでも記憶力・理解力といった認知機能などに応じた顧客対応について言及されるようになっている。
現段階では、金融商品取引に関わる認知機能をデジタル技術のみで自動的に判断する方法は一般に確立していないものの、重要な参考情報としてデジタル技術などを活用する可能性が期待されているという。
順天堂大学 医学部長・医学研究科長の服部信孝氏は「われわれは2018年から累計600症例以上にわたる認知症やパーキンソン病をはじめとした脳神経疾患患者や健常者の方への臨床試験を実施していた。そして、2019年からはグローリーと日本IBMのテクノロジーに臨床試験の結果をもとに、会話や表情から脳の認知機能レベルを推定するAIを共同で開発してきた。われわれがリーダーシップを発揮して日本のオープンイノベーションを実現した」と胸を張る。
AIには、IBMのWatsonやデータ解析技術と、グローリーの表情解析技術が用いられており、認知機能推定AIをベースに金融商品取引業務の支援に特化した金融商品適合性チェック支援AIアプリを構築。認知機能を推定するAIは市場に複数あるが、金融業務に特化したソリューションとして開発されたAIアプリは、日本で初だという。
日本IBM 理事・パートナーの先崎心智氏は「2021年に日本証券業協会では、高齢顧客への勧誘による販売に関するガイドラインについて認知機能に問題がなければ追加手続きを緩和するとガイドラインを変更した。資産運用は年齢に左右されずに認知機能のレベルに応じて金融サービスを一人ひとりに寄り添う形で提供できる世界を目指している」と話す。
AIアプリでは、タブレットで撮影した表情とAIとの会話から認知機能を15段階で推定し、金融商品の適合性判断を支援するための参考情報「脳の健康度」として提示。自然に取得可能なデータをインプットとするため、短時間で負担を掛けることなく、状態の可視化ができるという。
表情による認知機能推定について、グローリー 常務執行役員の亀山博史氏は「顔認証技術の中で表情認識機能があり、この機能をAIに応用しており、具体的には歯を見せて笑っている顔画像を選別して学習させ、笑顔認識モデルを構築した。表情の度合いを0~1000まで数値化することで人気脳と相関のある特徴の抽出を可能としている」と説明した。
アプリの利用の流れとしては、まずは真顔3秒→笑顔15秒→真顔15秒の表情撮影を2サイクル行い、その後は表情撮影の感想や趣味、雑談、投資に関する質問計12問に回答する。
また、さまざまな金融機関で業務適用可能な汎用性高いツール(アプリ)として設計しているため、数週間ほどの短期間での導入が可能なほか、各金融機関の業務コンサルティング、既存システム・DBとの連携や、UIのカスタマイズなど、柔軟な対応が可能であり、例えば定期的なモニタリングとしての活用も可能としている。標準ツールはIBM Cloud上で稼働し、AWSなど、そのほかのクラウドへの導入・連携もできる。
三菱UFJ信託銀行で開始するパイロット運用では、藤澤支店、吉祥寺支店、名駅視点、自由が丘支店の4支店で実施する。
パイロット運用に賛同する同行の顧客数十名を対象に、AIアプリを実際に使用してもらい、資産形成の相談に応じる金融機関の社員、顧客にとってのユーザービリティの評価・改善を行う。
三菱UFJ信託銀行では、今後検証を続けつつ、将来的には年齢にかかわらず、顧客が安心して安定的な資産形成が行えるように、認知機能に応じた利用者目線に立った金融サービスが提供できる体制を構築し、顧客に選ばれる金融機関を目指す考えだ。
全国の金融機関と他産業にも
アプリは金融機関の社員と顧客が利用する、金融商品の適合性判断を支援するための業務用アプリケーションとして、厚生労働省・PMDA)に報告・確認を実施して構築。さらに、利用しているデータや取得・保管方法、AIモデルのロジックなどが道徳的であるか否か、複数回にわたり倫理委員会などによる審査を実施。
今後、パイロット運用により評価・改善方針を策定し、全国の金融機関に向けて展開を図るとともに、他産業への展開・拡張を計画している。、
なお、同アプリは産形成の相談に応じる金融機関の社員が、顧客の金融機関金融商品の適合性判断を支援するための参考情報を提供するもので、有価証券の販売・勧誘、または投資助言を行うものではないとしている。